第四章
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楽家もない。
「よく上演されます。私もどちらにも出させてもらいました」
「そうですか。それでは」
ここでアーダベルトは話を核心に持ってきた。こう言うのだった。
「ワーグナーはどうでしょうか」
「ワーグナーですか」
「はい、今からやるこのワーグナーはどうでしょうか」
それを聞くのであった。
「ワーグナーですか」
「タラーソワさんは元々ワーグナーがメインでしたね」
「はい」
アーダベルトのその問いにこくりと頷く。やはり彼女のメインはそれであった。その声がワーグナーのものであるから当然であった。ワーグナーはソプラノに対しても独特の声を求める。だからなのである。
それはエリザベータもわかっている。だからこう答え返すのだった。
「そうです。そしてそのワーグナーですが」
「どうなのでしょうか、ロシアでは」
「やはりそれなりに上演されています」
答えはこうであった。
「ですから私も祖国で歌うことも多いのです」
「そうですか。それはいいことですね」
アーダベルトはそれを聞いて穏やかに微笑むのであった。
「ワーグナーが上演されるとはドイツ人冥利につきます」
「そうなのですか」
「はい。ですから」
そうしてまた言う。
「是非共今の舞台も」
「素晴らしいものにしましょう」
それを誓い合うのだった。こうして二人は舞台に入る。それは指揮者も演出家も驚く程身の入ったものであった。まるで役が乗り移ったかの様に。
「まるであの二人のままだ」
「そうだな」
豚いい裏の裏方達もそう言い合う。
「あそこまで今から身が入っているのはなかったな」
「わしも何十年もここにいるがな」
その中のベテランが言うのだった。
「あそこまではなかったな、本当に」
「そうなのですか、やっぱり」
「ああ、あれは凄いよ」
彼も感嘆の言葉を口にするのだった。舞台裏で照明器具を拭きながら。このバイロイトの舞台はかなり奥が深い。そこにも証明を使うからであった。
「だから今回は凄い舞台になるかもね」
「そうですか。じゃあ期待しますよ」
「そうだな。期待していいな」
彼等も期待しながら舞台の設定を進めていた。その二人の熱はさらに高まるのであった。
「我が妻よ」
リハーサルの中でアーダベルトはローエングリンになりきって歌っていた。
「それはできないのだ」
「何故」
それはエリザベータも同じであった。エルザになってしまていた。
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