ニ十章 幕間劇
別れの夜
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「あると思うか?」
「・・・・ないわね」
即答されたが、それはそれでいい。
「公方様を恋人にして、女の子手に入れる事しか考えてないと思うわよ。それに野望があったらもう少し上手くいっているでしょうし」
「妾な。それに手に入れる事だけを考えているわけでもないしな」
空になった碗にお茶を注ぎ、美空はそれに静かに口を付ける。あと俺が言った事には反論がなさそうだ。ただ女の子を手に入れるような男ではないとでも思ったのであろうな。半分ほど飲み干してから言った。
「・・・・ね、一真」
「何だ?」
「もう一回、川中島を起こしちゃダメ?」
ゆったりとした雰囲気の中で呟かれたのは、そんな言葉だった。
「あなたを光璃に渡すくらいなら、典厩の申し出なんか蹴っ飛ばして、川中島で戦っても良いのよ。柘榴や秋子だって分かってくれるはずだし・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「美空・・・・・」
「一真・・・・・。・・・・・あいたっ!な、何するのよ!?」
「アホか。美空自身だって分かっているだろう。今の越後の状況で川中島なんか起こしたらどうなることぐらい」
「分かっているわよ。私を誰だと思っているの?」
「美空だ。越後の覇者、関東管領長尾景虎。そして俺の大事な彼女だ」
「じゃ、じゃあ・・・・・一緒に出家しましょうよ。どこか誰も知らない山の奥に小さな寺を構えて、私と一真、それと空の三人で・・・・静かに・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・美空」
「・・・・分かっているわよ。分かってるけど・・・・。だって、他にどうしたらいいか分からないんだもの・・・・。母様には物心ついた時からお寺に預けられて、姉様が頼りにならないと分かったら還俗させられて・・・・越後を平和にするためにずっと戦ってきて・・・・」
「美空・・・・」
「お寺に帰りたいって言う以外に・・・・どうしろって、言うのよ・・・・」
そういうことか。美空が出家したい理由は、それ以外に逃げ道が分からないからだったのか。京や越前にいたのは、越後のために何かを背負っての遠征に過ぎない。
「あなた、天下一の妾状を持つ者なんでしょ。私以外にも数えきれないくらい恋人がいるんでしょ。だったら・・・・こういう時にどうしたらいいか・・・・教えなさいよ・・・・!・・・・ふぇ?」
そんな美空を俺は優しく抱き寄せた。まったく、やっと素直が出たなと思った。細い体を両手で抱いて、小さな頭を優しく撫でる。
「美空・・・・」
「一・・・・真・・・・?」
「どうしたって・・・・いいんだよ」
「え・・・・?」
「未来の奥さんは、未来の旦那に甘えていい
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