十九章 幕間劇
膝枕
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寝ちゃいそうだ。
「春日山を取り戻さんと話にならん・・・・・からな・・・・」
「・・・・主様?」
声をかけても、返ってくるのは声ではなく寝息だ。
「・・・・寝てしまったか。ふふ・・・・」
呟き、膝の上に乗った頭をそっと撫でてみる。一葉のよりかは短い髪であってちくちくしていたが、その変わった感触に一葉は思わず顔を綻ばせた。
「普段は冷静沈着で戦いになると鋭くなる顔だが、こうなると子供と変わらんな」
「・・・・・公方様」
「幽か。入れ」
「おや。一真様はお休みですか」
「主様も相当疲れておるのだ。大声を立てるなよ」
「御意」
穏やかな大将の寝顔を軽く覗き込み、幽も思わず苦笑い。
「仕事は少々休憩をしたくなっただけだ。主様が起きたら戻る」
「ははは。そこまで無粋を働いては、それがしが馬に蹴られて死んでしまいます。適当に片付けておきますので、御簾中様は未来の御夫君のお守りをお願い致します」
「そうか。・・・・すまんな、いつも」
「何を今更」
「ならば任された大役、見事果たしてみせよう」
「承知致しました。では、無粋者はこれにて」
幽が姿を消せば、部屋を満たすのは再び一真の寝息である。
「・・・・・・主様」
そんな眠る男に声を掛けるのは、彼さえ知らぬ表情を浮かべた、この部屋にただ一人の娘。
「余は、親の愛には恵まれなんだが・・・・どうやら良き家族と友は持てたそうじゃ。それと・・・・すまんな、主様」
そして、紡ぐのは贖罪の言葉。
「余も、双葉の事は案じておる。久遠と同じで心優しい娘ゆえ・・・・な」
久遠もいるし、彼女とて小谷に残した本当の意味を理解してもいるのだろう。同じ男を未来の僧侶と選んだ盟友は、双葉を新たな将軍として立てる事にも尽力してくれるだろうが・・・・。彼女の大切な妹は、将軍の後継者という重責に耐えられるのだろうか。
「だが・・・・な。そんな全てを投げ打って、この膝の重みをずっと独り占めしたいと思ってしまうのだ。・・・・余は」
静かに呟き、眠る男の頬を撫でる。
「・・・・主様の物を大事に隠し持っていた双葉と変わらぬな、これでは」
そんなところまで姉妹で似てしまうのかと、思わず漏れるのはどこか自嘲を孕んだ微笑みだ。
「・・・・お前はそれを許してくれるかの、主様」
そして。眠る男に、長い髪の娘の影が・・・・そっと重なったのだった。
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