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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第30話 フェザーンの夜
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い。
「いや、失礼。大尉はなかなか面白い方のようだ。月並みのようですが、これからもよろしくお付き合いを」
 そう言うとルビンスキーは上目遣いで小さく頭を下げると身体を翻して、出口の方へ向かっていこうとするが、数秒立ち止まった後、首を廻して俺に視線を向けて言い放った。
「そうですな。今度時間が出来たら、大尉にはエビをご馳走して差し上げますよ。では失礼」

「いや、良かった。ホッとしたぞ、君」
 ルビンスキーが上機嫌で俺の前から去っていったのを見て、アグバヤニ大佐は顔の脂肪を揺らしながら喜んでいたが、俺はとてもそんな気にはなれない。
「若手でも実力派というあのルビンスキーに一泡吹かせたようなものだ。私は彼のことが嫌いだが、彼から食事に誘われるというのも滅多にあることではない。彼が言っていた『エビ』とは一体何の事だかわからないが、とにかく大尉、お手柄だぞ」
「……はぁ、そうですね。緊張しました」

 緊張したのも事実だが、あの野郎の捨て台詞だけはどうにも勘弁ならない。ルビンスキーの知識の深さと広さを見せつけられた、あるいは地球との結びつきを思い知らされたが、よりにもよってロシア系の血を引く俺に『エビ』か。俺が日本人の転生者であることはさすがにルビンスキーでも知らないだろうから、純粋にこちらの世界における血統から挑発したのだろう。左手に持つコップを割らなくて本当に良かった。

 その後、ルビンスキーが俺達の前から去ったことで周囲の訪問客もそろそろお開きかと感じ取ったようで、次々と俺と大佐の前に来ては挨拶をし、出口へと向かっていく。それでも予定時間通りに終わったということは、ルビンスキー自身も時間を見計らってきたということだろう。どこまでも気に入らない夜だった。

 翌日、改めて俺は弁務官事務所で自己紹介し、駐在武官の上司・同僚・部下(といっても俺の部下ではないが)の紹介を受けオフィスの見学を終えると、レクリエーション終了とばかりにフェザーンの市街に足を伸ばした。
 もちろんユリアンについていったマシュンゴのような部下がいるわけでもなく、同期生は当然いるわけが無い。ゆえに俺は一人ところどころ解れたVネックと擦り切れたジーンズの上下で、ノタノタと繁華街を歩いていく。時折ブランドモールの柱やエスカレーターの鏡面部で自分の姿を見るが、乞食とまでは言えないが、貧乏人には見えるだろう。同盟弁務官事務所から尾行でもしない限り、俺を同盟軍大尉とは認識できないはずだ。もっともアントニナが今の俺を見たら憤慨するに違いないが。

 しばらくは表の繁華街をそうやってブラブラしていたが、特に買いたい物もほしい物もない俺としては、衣料品店に入って情報収集するよりは、夜の繁華街で酒を飲んで美味しい物を食べて情報収集したいわけで……裏道を数本抜けて、時折意地悪く後
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