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パープルレイン
第三章
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、それじゃあ使わせてもらうよ」
 丈はそれを受け取って言った。
「御礼はビール一本で」
「えらく奮発するわね」
「感謝の気持ちさ」
 そんな話をして午後の仕事の時間を過ごした。雨は降り続けていた。そして結局仕事があけても雨はあけはしなかった。まだ降り続いていた。
「よく降るね、本当に」
「夏にしてはね」
 丈と真砂子は会社の出口で上を見上げながらこう話していた。
「降るわね、本当に」
「雨の神様を何処かの色男が泣かしたのかな」
「それは貴方だったりしてね」
「さて、それはどうかね」
 彼は真砂子の言葉に対して肩をすくめて言葉を返した。
「僕は女神に知り合いはいないけれど」
「この前作ったんじゃないの?バーか何処かで」
「心当たりはないよ」
「男ってのは知らないうちに女を泣かせるものなのよ」
 真砂子は傘を取り出していた。
「知らないうちにね」
「男ってのは罪深い生き物だね」
「自覚すらないからね」
「というと僕もか」
「そうかもね」
 傘は完全に組み立てられていた。これでもう準備は整っていた。
「貴方が気付いてないだけで」
「だから男は罪な存在か」
「そういうこと。それじゃあね」
「またそんなに急いで」
 真砂子はその傘をかけて歩きはじめた。丈はその後ろ姿を見て呟いた。
「まあ頑張ってね」
 彼にはおおよそこのことは察しがついていた。女が変わるのはどういう時か、それがわかるまでには経験を積んできていたのである。
「けれどさっき自分の言ったことは覚えておいてね」
 これは誰にも聞かれないように小声で呟いた。
「男ってのは自分が気付かないうちに女を泣かせる生き物だってことは」
 そう言うと彼も傘を開いた。午後に真砂子から借りた黒い傘だった。
「じゃあ僕も帰るか」
 彼も会社から出た。そして一人真砂子とは反対の方向に足を進めるのであった。だが途中で足が変わった。
 真砂子はそのまま歩いていった。バッグに一通の手紙を忍ばせて。彼女は夜道を歩いていた。
「そろそろね」
 その場所に来たところでこう呟いた。
「それじゃあ」
 ゴクリ、と唾を飲み込んだ。意を決した。そして彼を待った。歩きながら待った。
「それでね」
「来たわね」
 声が聞こえてきた。間違える筈もない声だった。
「あの時さあ」
「いよいよ」
 真砂子は身構えた。とりあえずは平静を装って歩いていたが身構えていることに変わりはなかった。心の中で身構えていたのである。
 足音まで聞こえてきた。彼は間違いなく来ていた。真砂子はそれを聞きながらタイミングを見計らっていた。
(問題はどうやって切り出すかね)
 心の中で呟いた。
(そしてそれから)
 手紙を渡して切り出す。その際女もアピールする。これで自信があった。
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