第三章
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戻っていた。そしてその心で思っていたのであった。
それから彼女はまだ迷った。告白すべきかしないべきか。今の自分を思ってのことではない。それが成功するかどうかを心配していたのだ。
あの少年はそれからも横を通り過ぎていった。だが彼は真砂子には気付いていない。真砂子は日が経つにつれて少年への想いを強くしていっているというのに。それはもう完全に抑えられなくなり夜、その通り過ぎていく時間が来るのが待ち遠しくなってきていた。
そうした日々がどれだけ続いたかわからない。カレンダーの問題ではなく真砂子の心の問題であった。彼女にとって一日はあまりにも長くなり、そして少年を見る時は一瞬になってしまっていた。もう我慢できなくなってきていた。
「今日こそは」
これ以上は耐えられなくなってきていた。ある朝真砂子は意を決した。彼に言うことに決めたのである。
この日はいつもと全く違っていた。ランニングも足のノリがよかった。そして化粧も念入りにした。いつもよりも妖しいものにしていた。
服も。一張羅を出した。イタリアの特注である。スカートもいつもより短めで横にスリットが入っている。ストッキングはガーターにし、下着もシルクのものにした。普段とは全く違っていた。
「これなら」
いけると思った。女としての魅力でも、と。そして会社に向かった。だが心は仕事にはもう向けられていなかった。
「また今日はえらく派手じゃない」
丈は真砂子の姿を認めてこう言った。
「何かあるのかい?」
「さて、どうかしら」
物腰は普段と変わらない。軽く彼をあしらう。
「それは御想像にお任せするわ」
「生憎僕は想像力がなくてね」
丈はその言葉に対して笑って返す。
「何なのかはわからないね」
「そうなの」
「まあ何かあったら教えて欲しいけれどね」
そしてこう述べる。
「それでいいかな」
「気が向いたらね」
「楽しみにしているよ。おや」
ここで窓の方を見て声をあげた。
「雨か」
「梅雨も終わったのにね」
「夕立にはまだ早いけれどね」
壁にかけられている時計を見て言う。時計はまだ二時になったばかりであった。
「天気予報では晴れって言ってたのにな」
「天気予報はあてにはならないわよ」
真砂子は笑ってこう言った。
「外れる為にあるんだから」
「それで外れたと」
「あてにならないものよ」
「やれやれ」
丈はそれを聞いて溜息を吐き出した。
「傘を用意しておくんだったね」
「何なら貸してあげましょうか?」
真砂子はそれを聞いてこう申し出てきた。
「いいの?」
「ええ。こんな時に備えていつも一本余分に置いているから」
そう言って机の端にかけている傘を一本取り出してきた。黒い地味な傘であった。
「これでよかったら」
「有り難う
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