第一章
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か弾んだ気持ちになっていた。
そして次の日の帰りである。雨は降ってはいない。やはりその少年に会った。後ろから声が聞こえてきたのだ。
「来たわね」
心の中で呟く。ちらりと後ろを振り返る。
そこにいた。茶色の髪で華奢な身体の少年が。中性的な外見で女の子にすら見える。そんな頼りなげなところが彼女の心をさらに刺激するのであった。
前に向き直る。あまり見ていては変に思われると思ったからだ。そして彼が通り過ぎるのを待った。
「今日はコンビニでいいか」
また食べ物の話をしていた。
「軽くお握りでな」
「御前お握り好きだな」
「あれが一番食べ易いからな。美味しいし」
「じゃあ俺はサンドイッチにするか」
「メロンパンでもいいんじゃねえか?」
「あれ牛乳がないと食べにくいからな」
「パン自体がそうだけれどな」
こうした何の気兼ねもなく食べられる若さがやはり羨ましかった。そしてそのままの美しさが。真砂子はそれに嫉妬めいたものを感じながらも少年が自分の横を通り過ぎるのを待っていた。
「通って」
またしても心の中で呟いた。自分の側を通り過ぎてくれることを祈った。
そして通った。あの少年が自分の真横を通った。
「やった」
これも心の中の言葉であった。自分の側を通ってくれた。そしてその横顔を間近で見られた。やはり若く、綺麗な顔であった。
「それじゃあ行くか」
「ああ」
だが彼はそれには気付かない。そのまま友達と話をしながら前に消えて行く。そしてそれっきりこの日は姿を見ることはなかった。だが真砂子はそれで満足だった。
それから真砂子は気分的にも乗り気になった。服にも化粧にも肌にも一層気を遣うようになり仕事にも張りが出て来た。丈はそんな彼女を見てからかいの言葉をかけてきた。
「何かいいことでもあったのかい?」
「少しね」
仕事の合間に。真砂子はパソコンのデータを入力しながら丈に応えた。
「楽しみができたの」
「新しい香水を買ったとか?」
「そんなのじゃないわよ」
「じゃあスーツ」
「両方共いいのを揃えたけれどね」
それだけではないと言った。
「けれどそんなのじゃ楽しくはならないわよ」
「お金が出たからかい?」
「何か貴方ってお金の話が好きね」
「それがないと結局何もはじまらないからね」
彼は笑ってこう返した。
「お金がないのは命がないのと同じってね」
「夢がないわね」
「夢は確かに大事さ、けれどお金はそれと同じ位大事なんだよ」
「現実と理想をバランスよくとっていうつもり?」
「自分としてはね」
そのつもりなのであった。
「夢がない男って嫌われるからね」
「女には好かれないわね」
真砂子も笑みを浮かべてこう述べた。
「打算や計算だけの男なんてね。何の魅力もないわ」
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