第一章
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色々とお金をかけないと。何かと保てないものがあるのよ」
「花の命は結構長いとは聞くけれど?」
「その花もお水がないと枯れてしまうでしょ」
真砂子はこう返した。
「長くてもね、栄養がなければ駄目なのよ」
「栄養なしじゃもう駄目になったってこと?」
「意地悪なこと言うわね」
「おやおや」
「若い子が羨ましいわよ」
そしてふとこう溜息混じりに言った。
「手入れとか気にしないでいられるんだから」
「もう一度なりたい?」
「なれたらね」
出来る筈もないことではあるが。
「若返れたらいいのだけれど」
「その為にすることは?」
「恋なんて野暮なことは言わないでよ」
「おっと、じゃあ言うことがなくなってしまったな」
「雨が降ってるのに。寒くなるわ」
「涼しくなっていいじゃないか」
「そう。だったら傘はいらないわね」
そう言って丈の傘を取り上げた。
「おい、何するんだよ」
「涼しいのが好きなんでしょ?雨に濡れてみたら?」
「そんなことしたら風邪ひくじゃないか」
「そうしたら減らず口もなおるかもね」
「わかったよ、謝るよ」
「本当に?」
「だから。傘を返してくれよ」
「どうしようかしら」
まるで学生の様にふざけ合っていた。気持ちはまだ若かった。しかしそれも少しの間だけで真砂子はやはり歳がとったのを感じずにはいられなかった。一人になるとそれを実感する。
「はしゃいだ後が辛くなってきたわね」
苦笑いをしながら夜道を進む。
「もう歳なのね、本当に」
そしてそれを実感せずにはいられなかった。
「ついこの前まで学生だったのに。月日が経つのも・・・・・・ってこう思えるようになるから駄目なのね」
苦笑いが出た。出ずにはいられない。それに気付いてやはり疲れを感じる。
「あの頃は何もしなくてもよかったけれど」
その化粧や肌の手入れのことを思う。
「今はそうはいかないわね。難儀なことね」
そんなことを呟きながら雨の夜道を一人歩く。アスファルトに出来た水溜りが灯りを照らす。そして街の赤い光や青い光がそれに映ってさらに街を照らす。まるで下に鏡でもあり、それが光を反射させているかの様であった。
その道をハイヒールで歩く。道行く人々は擦れ違うだけの人であり誰なのか知らない。向こうもそれは同じだ。周りに人はいても彼女は今一人であった。
「家に帰ったら洗濯して」
さっき丈と話していたことをそのまま言う。
「あっ、その前にシャワーを浴びて」
順番を思い出した。いつも家に帰るとまずシャワーを浴びるのである。美容の為に朝起きてランニングをしてからもシャワーを浴びている。これも美容にいいと聞いたからである。冷水シャワーだ。ただし冬はしない。
「それからね。それから夕食」
これにも気を遣っている。出
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