十六章 幕間劇
敗戦後の癒し
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好みの尾張の濃い味付けだ。
「結奈にも苦労を掛ける」
「たくさん、文句を言っておいででしたよ」
くすりと微笑む傍らの双葉に、久遠が浮かべるのは苦笑い。
「・・・・目に浮かぶな」
茶碗を置き、次に取り上げたのは汁椀だ。
「お豆腐ですね」
「うむ。豆腐の味噌汁はな・・・・一真の大好物だったのだ」
「ここにいた時は、その豆腐の味噌汁を教えてもらいました」
「そうか。普通は生の方が美味しいと聞いたが、一真がな、豆腐は味噌汁に入れた方が最高だと言っていた」
「私も最初はそう思いました。田楽やそのままの方をよく頂きましたが、旦那様の仰った通り食べてみると、とても美味しかったです」
「彼奴は仲良くなった寺か、船から調達してくると言っていたが・・・・ぐすっ」
そんな椀の中に滴り落ちるのは、久遠の瞳からこぼれた一粒の涙だ。
「それに・・・・鮑も、出陣式の事も知らんで・・・・」
「(結菜さん、この料理なら久遠様は絶対に元気になるからって言ってらしたけど・・・逆効果なんじゃ・・・・)」
「あいつめ・・・・それでよく・・・・我の恋人になるなどと・・・・。それに・・・鍋とて、あれからまだ一度も食べておらんではないか・・・・次もお前が作ると言っただろう・・・」
「久遠様・・・・」
「うぅ・・・・一真・・・・一真・・・・っ」
二人きりの食事の席に響くのは、か細い久遠のすすり泣き。
「ぐす・・・・ひっく・・・・・」
「・・・・・・」
椀を置き、涙を拭う久遠の姿に、双葉は掛ける言葉を見つけられずにいる。
「(これが姉様なら・・・・どうするのだろうか・・・・)」
恐らくは力任せに久遠を蹴りつけるか、膳をひっくり返して叱咤でもするか。その光景は容易く思い浮かびはするがそのいずれも双葉には到底、真似出来そうにないものだ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
やがて。
「・・・・・・くっ」
「・・・・・・え?」
「ふふ・・・・・くくく・・・・・」
「久遠・・・・様?」
「・・・・ははははは!」
「久遠様・・・・あの・・・・?」
「わははははははははははっ!ははははっ。案ずるな、双葉。別に我の気が触れたわけではないぞ?」
「そ、そう・・・・ですか?」
「くそっ。落ち込むだけ落ち込んだら、もう落ちる所などないではないか」
絶望の底のさらに底は、確かにある。けれど底は底。それよりも底は、今はまだ無い。ならば、後は這い上がるだけだ。
「結菜め、我がこうなると分かっていてこの献立を誂えおったな・・・・。相変わらず底意地の悪い、蝮の娘め」
「久遠様・・・・」
「双葉も苦労。・・・・
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