十六章 幕間劇
敗戦後の癒し
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ち姉妹を鬼と戦う一真の恋人として迎えると宣言した時。さらにその後、越前に巣くう鬼達を討伐せんと旅立った時。そのいずれも久遠も、大きく、自信に溢れ・・・・それこそ剣聖将軍たる姉や、彼女の恋人と肩を並べるに相応しい強さを備えていたはずなのに。
「(久遠様の背中・・・・こんなに小さかったんだ・・・・)」
双葉の手でそっと拭かれる背中は、あの時と比べるものにならないほど、小さいもの。
「・・・・双葉」
「痛かったですか?」
双葉もこのような世話はそれほど経験がない。力の加減を間違えてしまったのだろうか・・・・と一瞬思うが、彼女の問いに久遠は答えを返す事はない。
「・・・・どうして、我が生き残ったのだ」
代わりに紡いだのは、悔恨の言葉。
「・・・・・・」
「金ヶ崎と手筒山を落とし、我が追撃を命じた時、一真は何かを警戒しているようだった。いや・・・・その前からだ。森を一真の脇に置いたのは我だが、森や足利とも足並みを揃え、後ろからの奇襲を殊に案じていた。結菜を我の側に置いたのも・・・・鬼どもの奇襲を抑え、我らが逃げる隙を作れたのも・・・・あれの奮戦あってこそだったのに・・・」
「久遠様・・・・」
「一真の今の立場を考えれば、何を差し置いても逃げるべきだったのは、彼奴だったのだ。我などではなく、彼奴と・・・・一葉だったのだ・・・・」
あの免状が下された時点で、一真の立場は根本から変わったのだ。それこそ、いち大名でしかない久遠よりもはるかに重要な存在なのだ。
「久遠様は、旦那様が・・・・」
「そんな事はない。・・・・あって、たまるものか・・・・」
だが、あの戦場の状況や周囲の環境、地形、逃げる向き。そして・・・・鬼達の数。久遠の知るありとあらゆる要素が、絶望的な結果しか導き出してこない。
『自分が出来ないから、人にだって出来るはずはない。・・・・そう思いたいのは人の常だ。そして、我は神の化身だ。人が出来ないことならば我が切り開いて見せる』
以前、あの男はそう言っていた事がある。その言いぐさを逆に考えれば、絶望的なこの状況でも、彼が生き残っている可能性を信じたくはあったが・・・・。
「(所詮我も、人の子か・・・・)」
信じる事と、夢見、願う事は違う。
「双葉・・・・。あいつは初め、こう言ったのだ」
「・・・・・・」
「とある任務できた。俺は神で見届けるために来たとな。だから、我の夫となれと言ったが断られてしまった。なので、我は愛妾で恋人になり自分の側に置くことにした。我の目指すやり方も色々と理解してくれたからな。そして将として使い、鬼を退治するための道具として使い・・・・挙句の果てに、このざまよ。我があれの恋人になれと言わなければ・・・・」
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