2部分:第二章
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わかってきたわ」
衡平も今それがやっとわかったのだった。自分でもそれが不思議だった。
「ここで。二人で」
「二人の思い出の場所やねんで」
小枝子はにこりと笑った。それを今感じたからだ。
「ここは」
「もう。なくなったけれど」
そう語る衡平の顔も明るさはあれど暗さはない。
「そやな。思い出の場所やな」
「そうやで。なああんた」
あらためて夫に声をかける。
「何や?」
「またここに来よ」
夫に対してこう言葉をかけるのであった。
「ここにかいな」
「そや。もう野球はやってへんけど」
「ああ」
それはもう言うまでもない。実際には球場ですらなくなっている。大阪球場はもうないのだ。少なくとも今ここにはなくなってしまっている。
「それでも。ええやん」
「そやな」
そして衡平も小枝子のその言葉に頷くのであった。
「思い出の場所やしな」
「二人の」
二人の言葉がここでまた合わさった。
「そやから。また」
「わかったわ。じゃあまたな」
「うん。二人で」
「ただ。二人でやで」
衡平はここでこう注文をつけてきたのであった。小枝子はそれを聞いてふとした感じの顔になって夫に対して問うのであった。
「二人でやの?」
「アホ、じゃああれか?」
一旦妻をアホと言ってからまた言う。
「ここに子供等連れて来るんか?どや、それは」
「アホ言いなや」
今度は小枝子がアホという。顔はまた笑っている。
「デートに子供連れて来る人がおるかいな」
「そやからや。ええな」
また妻に対して言った。
「二人で来るで、また」
「わかったわ。そやったら二人で」
「そういうことやで」
二人でお互いの顔を見るがその顔はお互い笑っている。二人はまたマウンドの上にいるがそこで顔を見合わせているのであった。そうして何時までも見合っている。二人の思い出の大阪球場の中で。あの時はじめて会った時のように明るく朗らかな笑顔で。
大阪球場 完
2008・2・5
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