1部分:第一章
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似合いのカップルやってんな」
その小枝子は彼の言葉を聞いて微笑んだ。
「ボーリングの衡平君とで」
「そういえばあの時俺はボーリングに凝ってたな」
衡平も自分の名前を聞いて微笑んだ。
「ほんま好きやったな」
「大阪球場にあったんはスケートやったさかいな」
「ああ。それでもここには結構行ってたで」
だが衡平はこう小枝子に答えた。
「何でなん?」
「古本屋あったやん」
そう彼女に言う。
「あの辺りに。あったの憶えてるか?」
「ああ、そっちのところやったな」
衡平の指差したところに目をやる。住宅博覧会の右手、二人から見て左手であった。今二人の前にはマクドナルドがあり道が続いている。パチンコ屋も見えればコンビニも見える。二人が若い頃の難波とはまた違っていた。
「うちはあまり行かへんかったけど」
「本好きやったんちゃうんか?」
衡平は小枝子に対して問うのだった。顔が少し笑っている。
「それで何でここに来んかったんや」
「ううん、欲しい本はすぐに手に入ったから」
小枝子は首を捻りながら答える。
「それでやねん。ここの古書街にはあまり行かへんかってん」
「そうやったんか」
「そうやねん。一杯古本屋あって気にはなってたけど」
「わしは結構行ったで」
衡平はそのようである。
「安かったし。掘り出しもんがようさんあったしな」
「それでやったん?ここに結構来てたんわ」
「まあそれもある」
自分でもそれを認める。それに頷きながら前に出ると小枝子もついて来た。
「実際のところな」
「それもあるってことは他にもあるんやね」
「野球も好きやった」
住宅博覧会の中に入るとそこにはもう野球の面影はない。既に過去のものになってしまっている。だが衡平はそこに野球を見ているのであった。その見ているものを前提にして小枝子に対して話すのである。しっかりとそこにあるものを見たうえでの話であった。
「南海ホークスがなあ。杉浦が投げて野村が打って」
「うちそれは知らんで」
「何や、南海線におってもか」
「阪神ファンやもん」
そう言い返すのであった。
「一応南海のことは知ってたけれどな」
「野球はやっぱりパリーグやろが」
これは衡平の考えである。しかし小枝子は違うのである。
「ちゃうんか?それと」
「うちはちゃうで。ここに来てたんはやっぱり」
「スケートかいな」
「そういうことや。それであんたと会うたんやないの」
笑って言うのであった。笑いながらかつてスケート場があったその方を見るのであった。自然と衡平もそちらに顔を向けていた。
「滑ってたあんたと」
「そやったな。そういえばあの時は」
応える夫の顔にも笑みが浮かぶ。昔を懐かしむ優しい笑みであった。
「何かあったん?」
「いや、滅茶苦
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