第六章
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第六章
その前でだ。香里奈は戸惑いながら裕則に問うのであった。
「ここで一体何を」
「何をって決まってるじゃないですか」
素っ気無くすらある今の裕則の言葉だった。
「ブティックですよ」
「はい」
「ブティックは服を試着して買う場所ですよ。それしかないじゃないですか」
「それはわかってますけれど」
「けれど?」
「あの、私」
「ああ、お金なら問題ありませんよ」
このことは笑って一蹴した裕則だった。
「これでもメイクアップの技術は確かで。クライアントも多いんでお客さんには全く困っていません。勿論お金にも困ってませんから」
「お金は私もあります」
それはだと返す香里奈だった。
「ただ」
「ですから。今回も魔法なんですよ」
「今回も?」
「はい、魔法です」
こう話すのだった。
「ですから魔法をかけられたと思ってですね」
「お店の中にですか」
「はい、行きましょう」
また言う彼だった。
「そういうことで」
「魔法ですね」
香里奈はその言葉を裕則に返した。
「魔法なら。そうですよね」
「何の気もかけることはありませんから」
「わかりました。それじゃあ」
「中に入りましょう」
こうしてまた裕則に魔法をかけられた香里奈だった。そして次の日。
学校ではだ。生徒も先生達も誰もが驚いていた。
「誰だよ、あれ」
「何だあの美人」
「誰なのよ」
「あんな人いたか!?」
「いないだろ」
長い髪に少し茶色をかけ見事にブローさせてある。顔立ちは非常に整い堂々とした表情である。その目には眼鏡も何もない。
耳には銀のイヤリング、首には同じ色のネックレス。赤いシャツに黒い上着、そしてかなり短いタイトのミニである。ストッキングは肌色だ。
ハイヒールの音をつかつかとさせているその美女の正体は誰なのか。誰もが考えた。
「ええと、誰なんだろう」
「あんな人見たことないけれど」
「そうだよな」
「一度も」
「本当に誰だ?」
「先生かしら」
生徒の一人がこう言った。
「制服じゃないし」
「先生?誰だよ」
また一人が言った。
「それなら。誰なんだよ」
「あんな先生いないよな」
「ああ、いない」
「あんな奇麗な先生うちの学校にいないぜ」
このことはすぐにわかった。教師の方が生徒より数が少ない。それなら調べるのは簡単なことだった。
「保健の先生でもないしな」
「うちの先生おばちゃんだしな」
「だから違うよな」
「じゃあ本当に誰なんだ?」
彼等はさらに考える。そうしてであった。
「あの人は」
「ええと、学校にいる人なら」
「一体誰なんだ?」
「本当にな」
「いや、待てよ」
ここでまた一人が言った。
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