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戦国異伝
第百八十一話 諸法度その九

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「だからな」
「それで、ですか」
「織田信長こそは」
「うむ、天下を一つにして治めることがな」
 出来るとだ、顕如は言葉を続けるのだった。
「だから用心してな」
「では次の戦では」
「勝ち残るのは」
「若し我等を破ったならな」 
 そうしたなら、というのだ。
「毛利にも勝つであろう」
「では武田、上杉には」
「あの両家には」
 戦国の世でも屈指の強さを誇るその両家でもだ、どうかというのだ。
「どうして戦い」
「どうして勝ちましょうか」
「拙僧もそこまではわからぬ」
 顕如とて人だ、人は未来を予測することは出来るが見ることは出来ない。それでこう側近の高僧達に答えたのである。
「しかしじゃ」
「それでもですか」
「織田家は勝ちますか」
「そうなるやも知れぬな」
「そして天下は泰平に向かいますか」
「織田家は」
「うむ、なるやもな」
 こう言うのだった、そしてだった。
 そうした話をしてだ、顕如は周りにこうも言った。
「ではな」
「はい、それでは」
「ここからはですな」
「戦の用意をせよ」
 今からというのだ。
「その最後の詰めをな」
「では雑賀衆にも」
「このことを告げますか」
「無論じゃ、孫市にも言うのじゃ」
 雑賀衆を率いる彼にもというのだ。
「この石山御坊、守り抜くぞとな」
「では」
「そうして」
「織田信長、見せてもらう」
 腹を括った顔でだ、顕如は呟いた。
「御主がまことに天下を治められる器かな」
 こう言って自身も席を立ってだった、顕如は石山御坊においての次の戦に備えるのだった。そしてその頃安芸では。
 元就は三人の息子達と主な家臣達を吉田郡山城に集めていた、そのうえでだった。
 彼等にだ、こう告げていた。
「間もなく戦じゃ」
「織田家とですな」
「あの家との」
「そうじゃ、それでじゃが」
 ここで元就は険しい顔でこう言った。
「山中は向こうに逃れたそうじゃな」
「申し訳ありませぬ」
 元春が父に答えてきた。
「まさかと思いましたが」
「厠を潜ってじゃな」
「そうして逃げられました」
「よく逃げたわ」
 元就はその山中に感嘆の言葉さえ漏らした。
「あそこまでしてな」
「そしてその足で。どうやら」
「織田家にじゃな」
「逃げたかと」
 そうではないかというのだ。
「そして織田家に助力を求めるかと」
「そうなるであろうな、しかしじゃ」
「しかし?」
「しかしとは」
「わしは天下を手に入れるつもりはない」
 息子達にも家臣達にもこのことは言うのだった。
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