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その魂に祝福を
魔石の時代
第四章
覚悟と選択の行方2
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 そもそも、その女剣士――いや、今となっては女司祭と呼ぶべきか。どうやら、あの後でサンクチュアリに籍を置いたらしい――と出会うきっかけとなったのは、別の魔女との出会いだった。
「貴様、何をしたか分かっているのか!?」
 鋭い罵声が響いたのはとある魔物を救済した直後の事だった。魔物が根城にしているような場所にのこのこと近づいてきた以上、所属はともかくとしても同業者に決っている。いつ魔法が放たれてもおかしくない剣幕に、念のため魔力を練りながら振り返った。
 そこにいたのは、二十歳そこそこの女だった。険の強い顔つきを踏まえてなお大層な美人だったが――今注目すべきはその右腕だろう。
(アヴァロンか……)
 彼女の右腕は目に見えて黒く染まり、すでに変容が始まっている。そろそろ殺しにも手慣れてきた頃だろう。
(隙がないな……)
 実際、戦闘には慣れているらしい。となると、いわゆる転属組――サンクチュアリからアヴァロンへと移った魔法使いと言う可能性もある。だとすれば、腕の状態だけで判断するのは危険だった。サンクチュアリの魔法使いにも、戦闘に長けた者はいくらでもいるのだから。
「その女がこれまで何をしてきたか知らないのか?」
 こちらを――というより、元魔物の女を睨みつけて、その魔女は言った。
 元魔物の若い……いや、資料では三十代半ばであるはずのその女は、いわゆる人買いである。主な商売相手は娼館や下衆な金持ち。となれば、商品は若い女である事は言うまでもない。同性であるという事で油断を誘い、田舎娘を騙して攫っては娼婦に仕立てて売りさばく。そんな事を生業としていた女だ。目の前の魔女も、それを知っているのだろう。アヴァロンの魔法使いとしてこの場に赴いてきた以上は間違いなく。だが、
「知っているなら何故だ?」
 自分がもしも白い法衣を纏っていれば、こんな馬鹿げた質問はされなかっただろう。だが、自分が纏っているのは黒の法衣である。それは、この新世界でもアヴァロンに所属している事を示す記号だった。もっとも、今も昔も絶対の記号と言う訳ではないが。
 ともあれ、今は彼女の質問に答えるのが先決か。いい加減、魔法が飛んできかねない。
 元魔物の女自身も元を辿れば攫われた少女だった。それがまず前提であり、ある意味では結論である。彼女は別に個人で人身売買を行っていた訳ではない。その裏にはごく当たり前のように組織が存在する。その組織に攫われ、十年以上の年月をその支配下で生き残るために足掻いた結果が今である。さらに言えば、魔物化したのは怪しまれた彼女をその組織があっさりと切り捨てたからだった。絞め殺され、湖に遺棄されそうになった。その直前に抱いた自分の人生を嘆き、まだ生きたいと……もう一度やり直したいという強烈な欲望が、今も世界に残されたままである『奴ら』の瘴気
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