第28話 雨宿り その2
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ヤンがやたら饒舌にラップとジェシカの交際状況を説明したりと、時間を忘れるように語りあった。
後日、別の場所で再会したアッテンボローから、「あの時のボロディン先輩はちっとも偉く見えませんでしたよ。なんていうかジュニアスクールの先輩みたいで。もっとも今でもたいして偉くは見えませんがね」と大変失礼なことを言われたのはどうでもいいことかもしれない。
そうしているうちに日は沈み、門限の関係でヤンとアッテンボローが名残惜しそうに寮舎へと帰ると、再び俺とイロナは薄暗い士官学校の中をゆっくりと歩き始めた。
「ヴィク兄さんはこういうところに通っていたんですね」
足下だけを照らす街灯に沿って、イロナは歩きながら俺の背中に言い放った。
「後輩の人達がみんな兄さんに親しげで……いいなぁ……私もここに通いたい」
「イロナ」
俺は足を止めて振り返る。イロナには軍人なんかなってほしくない……そう言おうとしたが、再び口をつぐまざるを得なかった。イロナは歩きながら泣いていた。
「わた、わたしが強情で……」
分かっている。薄茶色の肌に切り揃えた見事な金髪で、母親譲りの陽気さと誰にでも気さくで頭も良く、運動神経も抜群で活動的な、学校の中心的存在であるアントニナと同じ学校に通うという辛さ。遺伝の神様の悪戯か、黒髪に白い肌という姉とはまさに正反対の容姿に産まれ、同級生からも教師からも常に姉と比較され続けるという拷問に近い学校生活。『賢姉愚妹』とか『本当にボロディン家の娘なのか』とか言われないためにも、ひたすらストイックに勉学に運動にと励み続ける日々……
たしかに強情かもしれない。しかし『他人がなんと言おうと聞き流せばいいことだ』と、イロナにアドバイスすることがどれだけ非情なことか。言い逃れをすることが出来ない生真面目さの中で、唯一のはけ口が『直接血の繋がっていない義兄』の俺だけしかいない。その俺も年が離れている上に、士官学校に地方赴任でなかなか家に居付かない。故にアントニナのライバルであるフレデリカに近づいていったのだろう。俺に隔意があるというのも近づきやすかったに違いない。それが余計自分を浮かせる原因となると本能的に分かっていても。
結局、俺は泣き続けるイロナと肩を並べて歩くことしかできなかった。そしてとうに仕事を終えて、事務局の前で俺達を待っていたキャゼルヌもまた同じだった。真ん中に九歳の少女を挟んで二二歳と二五歳の男が並んで歩くという、軍服を着ていなければ即通報の光景をあたりに見せびらかしながら、キャゼルヌの借家に向うことになる。
「なんですか。男二人してだらしない!!」
そのままの状態でキャゼルヌ宅に到着した俺達に、いまだ結婚はしていないものの、既に婚約はして充分に旦那を尻に敷いているオルタンスさんは盛大に怒声を浴びせた。
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