第28話 雨宿り その2
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神経のようだ。「クハッ」とヤンが小さな苦悶の声を上げるが、俺はほっておいてアッテンボローに敬礼を返した。アッテンボローがイロナと握手している間、今度は首まで傾けて痛がるヤンの肩をひき寄せると、囁くように問うた。
「ところでワイドボーンとは相変わらずか?」
「別に彼を嫌っているわけじゃないですよ。性格が合わないだけで……ただ最近は随分苦労しているみたいで、ちょっとは気にしています」
ヤン曰く……一年生からずっと学年首席を維持していて、俺やウィッティが卒業してから教官が何人も変わり、『一〇年来の秀才』と再び評価されるようになった。本人はそう言われることが一番迷惑らしく、図書ブースでぼんやり本を読んでいても、後輩がウヨウヨと集まってきてはいろいろ言ってくるらしい。特に一年生のアンドリュー=フォーク候補生に付きまとわれているとの事。
「アイツは陰気で尊大で、それでいて卑屈で独善的な実に嫌な奴ですよ。あの野郎、この間も有害図書撲滅委員会とかいう品性もセンスも欠片のない自主委員会を作って、人が苦労して集めた本を焼きやがりましたからね」
いつの間にかイロナと仲良くなったのか、(イロナがいたく恥ずかしがっているにもかかわらず)肩車したアッテンボローが話の輪に加わってくる。
「ワイドボーン先輩が気の毒ですよ。ヤン先輩に戦略戦術シミュレーションで一回も勝ててない事を『ほかの分野では引き離している』とか言っていつも同情する仕草を繰り返すんです。言われる度に古傷を抉られるワイドボーン先輩の気持ちぐらい、子分を自称するなら察しろと言いたいですね」
「あれからずっとワイドボーンに負けてないのか? ヤン」
「『悪魔王子の一番弟子』として『弟弟子』負けてやる義理などないので」
しれっと応えるヤンに、はぁ〜と俺は溜息をついた。兄弟弟子を自称するなら少しくらい仲良くしろよと言いたいが、そこは譲りたくない一線なのだろう……とりあえずイロナをアッテンボローの肩から下ろしてやってから、俺は言った。
「ワイドボーンには近いうちに俺の方からフォローを入れておくさ。ヤンもアッテンボローも、アイツが苦労しているようだったら手助けしてやってほしい。『誰に頼まれた』と言われたら、遠慮なく俺の名前を出していいからな」
「わかりました。『殿下』がそうおっしゃるのでしたら」
ヤンがそう言うと片足を引いて中世風のお辞儀をしたので、俺は容赦なく左前の足の甲を蹴り飛ばしてやった。
それからキャゼルヌからの連絡が来るまで、イロナを含めて四人でいろいろな事を話しあった。アッテンボロー家が姉三人弟一人に対して、ボロディン家は義兄一人妹三人とまったく逆な事を耳にして、アッテンボローが「俺もボロディン家に産まれたかったなぁ……」とかしみじみと心情のこもった返答をしてイロナを困らせたり、
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