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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第28話 雨宿り その2
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したい後輩がいるんです」
 俺がイロナと小旅行している事、今夜キャゼルヌ宅へお邪魔する事を告げると、ヤンは額をさすりながら携帯端末を操作する。通話先が出たのか、用件もそこそこに相手にこの木陰に来るよう命じている。
「おやおや『無駄飯喰らい』のヤンもずいぶんと偉くなったもんだな」
「『悪魔王子』の居ない士官学校ですから気楽なものですよ。シトレ校長閣下にはお会いになりましたか?」
「『黒いくそ親父』に会うつもりはないよ」
 わざわざイロナを連れての旅行なのに、なんでわざわざあのくそ親父に会わなけりゃいけないのだ。だがシトレという人名に生真面目なイロナは敏感に反応して、ヤンに「シトレ叔父さんの事ですか?」と余計な事を聞いてしまう。イロナの反応に、ヤンは瞬時にその意味を理解し、小さく何度か頷いた。
「あぁ、そうでした。ボロディン先輩の実家には、校長は顔を見せにいらっしゃるんですよね」
「そういうことだ」
「ですが今回は会っておいた方がいいと思いますよ。校長、今期中の退任がほぼ決まったそうですから」

 それはつまり次の任地が決まったという事だろう。そして俺が二年生の時から足掛け六年の校長勤務の終わりであり、中将として八年目が終わるという事は……ついに正規艦隊司令官のポストが空いたという事だ。それはフェザーンに赴任する俺にとって、今後一年以上は間違いなく会えない、あるいはシトレが戦死したら二度と会えないということと同じ。

「まぁ時間があれば会ってみるとするさ。最悪、映像メールでもいい事だしな」
「あいかわらず根に持ってますねぇ……分かる気はしますが。あぁ来た、来た。アッテンボロー、こっちこっち」
 親しい友人を呼ぶかのようにヤンが手招きした方向から、息を切らして一人の『そばかす』が駆け寄ってくる。もつれた毛糸のような鉄灰色の髪をもつ中肉中背の青年革命家にして奇術師、無類の毒舌家。
「はぁはぁ……いったいなんです。ヤン先輩?」
「アッテンボロー、こちらが『私が心から尊敬してやまないといつも公言している』ヴィクトール=ボロディン中尉殿と、その妹君だ」
 ヤンの言葉に、とにかく俺に形だけでも敬礼しておこうと慌てて小さく手を額に当てただけのアッテンボローは、もう一度俺を振り返り、イロナを見て……踵を合わせて再度、今度は背筋を伸ばして敬礼する。

「七八五年生のダスティ=アッテンボロー二回生であります!! ヤン先輩が『シスコンで、口先から生まれた軍人に全く向いていない、それでいて変なところで鋭い嗅覚を発揮する悪魔のようだと常々吹聴している』ヴィクトール=ボロディン先輩と、その美しい妹さんにお会いできて光栄です!!」

 俺はすぐさまヤンの頭めがけてチョップをくり出し、見事にヤンの前頭中央部に命中させる。四年生になっても相変わらずの運動
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