第七話
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ぼろげに考える。
そうしている間にも、少しばかり曇ったシーラは言葉を溢れさせていた。
「それだけじゃないよ!戦闘の時もモブの動きを完全に知ってる立ち回りしてたし、あとあの時のボタン!あんなの、『まだ見逃してる道があるかもしれない』っていう可能性を完全に捨てきらないと見つけられるはずないよ!初めから、このゲームに『スイッチ起動の隠し通路』っていう概念があるって知ってないと……」
そこでふと、シーラの熱弁が止まった。何とも言えぬ不穏な空気に、何か言わなければと、俺は言葉も目的も見つからないまま息を吸い込んだ。だが、その空気は、暗いまま突然俺を注視したシーラによって無音のまま吐き出されることになった。
「ねえ、なんでベータテスターってこと、隠さなきゃだめなのかな……なんでこんな扱い、されなきゃ……だめなのかな……」
途切れ途切れ、徐々にか細くなっていくシーラの言葉。その声が聞き取れなくなるまでしぼみきると、彼女は震える唇を影に隠し、うつむき、垂れた前髪で瞳を消した。
―――
言葉が出てこない。
またこれだ。
何か言葉をと、思えば思うほど喉が詰まる。
何か行動をと、思えば思うほど体が強張る。
現実の世界でも、仮想の世界でも、これだけは変わらなかった。
肝心な、決定的なところで、俺は何もできない。何もわからない。
シーラのような『実力』があるわけでもなく、ディアベルのような『才能』があるわけでもない。
俺には秀でるものなんて何もない。いつまでもどこまでも、輪郭だけしか描かれない、名前も顔もないモブキャラなのだ。
そう考えると、何とも言えない、喪失感にも似た感情が心の奥に滲みだしてくる。
俺は結局、そこで思考を止めてしまった。
そうして今年度最悪の空気を二人そろって纏い、うつむいていると、ふと、遠くの方から救いの声が聞こえてきた。
「――おーい。二人ともー」
逃れるように後ろを振り返る。すると思った通り、先の通路から顔を出したディアベルがこちらに手を振り、駆け寄ってくる姿が視界に入った。どうやらアルゴとの交渉はうまくいってくれたらしい。彼のいつも以上のニコニコ顔はそういうことだろう。
調子のいい自分のアタマに覚えた少なからずの嫌悪をかみ殺し、俺は笑顔で報告に来たディアベルに、一応確認と尋ねた。
「ディアベル、早かったな。もう話はついたのか?」
そう言えば、自分はいつからディアベルに敬語を使わなくなったのだろう。理由もなくそんなことを考える。
そんな俺の空虚など気づくはずもなく、ディアベルは五割増しの微笑みを振りまき、情報の伝達をさぼる俺の聴覚に、張りのある声で答えた。
「ああ、『こーいうのは一秒
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