第一話
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体感する機械、《VFシミュレーション・システム》のたまものだ。
その衝撃は、ダメージを負うごとに強くなっていく。六度目のダメージは、それまでのダメージを軽々と超越するものだった。
「ぎゃははははっ!俺の勝ちだな!」
黒髪を逆立てた青年が笑う。
「くぅ……」
「約束通り、お前のカードをもらうぜ」
この黒髪の青年とシノは、つい先ほどまで『賭けファイト』を行っていた。本来ならばあまりほめられたものではないが、どうやらこの青年は今までこの店で何度も賭けファイトを行い、カードを巻き上げて来たらしい。
シノが提示した条件は、シノが勝利した場合、今まで巻き上げた全てのカードを持ち主に返却し、このカードショップから立ち去ること。それに対する青年の条件は、彼が勝利した場合シノのデッキのカードの中で、一番価値のあるカードを譲渡すること。
「しかた……ありません」
シノはデッキを手に取る。
植物をモチーフにしたモンスターや人のイラストが描かれたその《クラン》の名は、《ネオネクタール》。このデッキのユニットたちは、シノにとっては宝物に等しい存在だった。
それを、手放さなければならない。
「(ごめん、なさい……)」
――――私が、弱かったばっかりに。
シノが取り出したのは、緑色のドラゴンが描かれたカード。
「おおっ、《アルボロス・ドラゴン》じゃねぇか!」
「すっげー!確か今なら5000円くらいで売れるぜ!」
「すごいっす、森川さん!」
森川、と呼ばれた黒髪の青年と、その取り巻きの少年たちが騒ぐ。
《アルボロス・ドラゴン”聖樹”》は、シノのカードの中で一番価値が高いカード。
もともとは、このデッキはシノの母親が使っていたものだった。それを失うのは、耐え難い屈辱だ。
だが、勝負のルールはルールなのだ。シノは敗北した。だから、このカードは失わなければならない。
「おら、早くよこせよ」
「……はい」
アルボロス・ドラゴンが森川の手に渡りかけた、その時だった。
「……何の騒ぎだ?」
男の声が、店内に響いた。
よく通る声だった。暗く、目立たない声だったが、確かな存在感を秘めた声だった。
それを発したのは、今丁度店内に入ってきたばかりであろう、茶色い髪の青年だった。学校帰りなのだろうか。制服を着て、スクールバッグを担いでいる。その制服には見覚えがあった。シノの通っている学校の、高等部の制服だ。
「あん?何だお前」
「……賭けファイトか……感心しないな……」
森川の問いには答えず、青年はため息をつく。その瞬間ふと、シノは「この人はヴァンガードが好きなんだ」と、なぜか直感的に思った。
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