皮肉を嫌う男
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わない。
俺にとってはお前の方が愚かだ。家族がいるのに、それを想えないお前は最悪で、最低なのに。なのに、まるで高潔な女のように見えてしまう。周りが彼女をそう扱う。それが嫌だ。
お前を嫌わないということは、まるでお前を認めてしまうことのようで。
そして彼女を認めるということは、その言葉をも認めてしまうということだ。
愛する人がいることは愚かなのか? そんな馬鹿な話があって良いのか?
「お前が嫌いだ。家族を愛するなと言うお前を、認めることはできない」
「そうですか。さっきも言った通り、γ、あなたはまだ若い。いずれ分かるときがくるのです」
「来ないさ。俺には絶対に来ない」
そうですか、と彼女は言った。何でもない事のように。けれどまだ彼女の言葉は続き、ならばこれだけは覚えておきなさい、と言う声が聞こえる。俺に背を向けていた華奢な体がくるりと反転し、自然と向かい合う形になった。彼女の黒い髪が宙を舞い、黒い眼は俺の視線をとらえて離さない。
彼女は、美しい女性だった。
「――――いいですか、γ。大切なものを守るときには、武器を握らなくてはなりません。けれど、武器を握った手では愛するものを抱きしめることなどできないのですよ。それを忘れてはなりません」
*
シーナは、泣いていた。
ボンゴレの赤く染まった亡骸を抱きしめ、叫ぶように嘆くように泣いていた。
その手には銃が握られていて、そしてボンゴレの左胸にはおそらく銃痕…………。間違いなく、シーナが撃った銃弾で死んだのだろう。それはすれ違った白蘭の上機嫌な様子からもうかがえる。
愛する男を殺した武器は今もまだその手にあり、そしてそのまま亡骸を抱きしめている女。
(嗚呼、貴女には未来が見えていたのか)
あの言葉は、本当に若い俺への忠告だったのだろうか?
今の俺には、自分の娘へ向けた皮肉の言葉にしか聞こえないのだ。
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