皮肉を嫌う男
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あった。死を覚悟して数日、独自の情報網でいち早く俺が捕らえられたことを知った彼女は、俺を密かに逃がすことに成功した。
それは、深い木々が繁る森の中、その帰り道のことである。
「何故待たなくてはならないのです?」
「どうして俺を助けた」
「命令だったからです」
「お前の夫が捕まったとき、命令があっても助けなかったじゃないか」
「あのときと今回では状況が違います。今回は早急に助け出さなければならず、また私一人でも救出可能でした。あのときはその逆。実際、私一人で行動せず仲間の助けを待ったから、彼は今も生きているのではないですか」
「前提がおかしいだろう。どこの世界にただのガキと自分の夫を対等に考えるやつがいるんだよ」
「どちらも、同じファミリーの仲間です」
「血縁者とそうでないものを、お前は対等に見ているのか? 同じなわけがないだろう、夫だぞ!」
「たかだか夫じゃないですか。特別扱いする必要が、どこにあります?」
信じられないものを見るような目で、俺は彼女を見た。本当に、彼女は血の通った人間か? 『たかだか夫』? よく言えたものだ、特別だから夫婦という関係になったんじゃないのか? そうでないなら、どうして他人のままでいない。結婚などしたのだ。
「γ。あなたはまだ若い。いずれ分かるときもくるでしょう」
「分かりたくもない。家族を見捨てるような真似を平然とできるような人間に、俺はなりたくねぇよ」
「家族を見捨てなければ、マフィアとして死ぬことが出来なくなります」
「マフィアとしての人生は、家族よりも大切なものか? 違うだろう、家族を見捨てたら人間として死んだも同然だ!」
「それはただの綺麗ごとです。心の臓が止まらなければ、人間としての死は来ない。息をしている限り人間は生き続けるし、そして家族よりも大切なものがある人間もいます。私がその中の一人であることが、あなたにどんな悪影響を引き起こすというのです? そんなに食い下がる必要がどこにあるのですか」
周りを気にしながら、俺の方を見ようともせず彼女は尋ねた。敵の追手がある以上、そうやって周りの気配を探るのは大切だ。分かっている。分かっているが、その行動は俺との話もとるに足らないものだと言われているようで、俺の中の反抗心がむくむくと湧き上がる。苛立ちが俺を支配した。
「俺は、お前が嫌いだ」
そう、彼女が嫌いだった。
どうしてお前はそんなに冷徹なんだ。笑えとは言わない。優しくなれとも言わない。ただせめて、自分の家族にくらい、思いやりを持ったっていいじゃないか。その程度で、神はお前に罰をあたえない。
俺は自分の家族を愛してるんだよ。当然のことだ。けれど、それをお前は愚かなことだという。俺だけではなく、家族を愛するすべての仲間に、愚者だと忠告することを厭
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