皮肉を嫌う男
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ーは、自分で着けるために買ったのね? ごめんなさい、勘違いして」
とにかく、シーナは皮肉を愛していた。
どうやら無自覚のうちに皮肉を言っていたようで、俺が皮肉を言うなと苦い顔で苦言を程せば、きょとんとした顔でそんなこと言ってた? と返す。
「いいじゃない。私は好きよ、シーナの皮肉」
当時の我らがボス、アリアはいつもそう言っていた。その度にシーナは嬉しそうな顔をして、笑むのだ。
(本物の母親よりも親子らしいな)
その様子を見ていれば、誰だって思っていたはずだ。けれど誰もそれを言葉にすることなく、いつのまにかシーナの両親の話をすることが憚られるような雰囲気ができていった。
俺もそうだ。周りの雰囲気に押されたわけではないが、わざわざ気に食わない相手を思い出す必要もない。どれだけシーナに両親の思い出話をねだられても、真面目に取り合うことはなかった。
しかしながら、ふと、真実を知ったシーナの姿を見てみたいと思ったこともある。
お前の母親は、家族のことを愛したことなどなかったんだよ。娘の話なんて一度も聞いたことが無かった。娼婦のような真似をしていて、それにお前の父親は何も言わないような、そんな関係だったんだ。
そう教えてやったら、シーナは泣くだろうか。
きっと泣く――――だから、シーナが彼女の娘などと信じられないのだ。
けれど。
シーナが皮肉を言っている瞬間、その時だけは、彼女の実子だということを認めなければならないだろう。
口角を少しばかり引き上げ、流し目を送りながら相手を皮肉るその姿は、ため息を吐きたくなるほど似ているのだ。俺に何度も痛烈な皮肉を浴びせた、あの、彼女の姿に。
*
ボスが死に、姫がやってきて、ジッリョネロの命運を分けようかという緊張感に包まれていた頃。
シーナが自らを間者に推薦したのだ。確かに俺たちには情報が少ない。白蘭なんぞという名前がこの裏世界に聞こえだしたのはここ数年のことなのだから、当然だ。
だが、俺は大反対だった。まずシーナはここの中でも飛び抜けて弱かった。間違いなく戦闘員じゃないし、これからそうなれそうな雰囲気もない。無駄死にになる可能性が限りなく高いのだ。
けれど、一番の理由はそれじゃなかった。間者。いわゆるスパイだ。きっと誰もが彼女のことを思い出したはずだ。
冷酷でいて無表情な、皮肉屋の女スパイのことを。
それで、どうしてシーナの意見に賛成などできようか。最後まで俺は反対を続けたが、シーナの母親を知らない姫が最終的に賛成の決断をしたということは、……そういうことだったのだ。
シーナは腹の立つ女だった。彼女に良く似ているところがありながら、
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