皮肉を嫌う男
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(皮肉を嫌う男)
どうしても馬が合わない人間というのは、歴然として存在する。
同じファミリーの同志であってもだ。彼女もその内の一人だった。
後にやって来るシーナという女の母親に当たる彼女は、根っから俺と性格が合わなかったらしく、ことあるごとに衝突していた。
彼女は氷よりも冷たい女で、およそ人間らしい情はマフィアとして命とりになると本気で考えており、弟がいて彼らを大事にしている俺とは、どうしたって分かり合うことができなかったのだ。
彼女の夫も同じジッリョネロにいたが、目立たない男で、俺は終生彼と話すことはなかった。
彼女が嫌いだった。
家族の情などマフィアに必要ないと言う彼女が。
俺は決して彼女のその持論を認めることはなかったし、これからも認めることはないけれど、それでもその言葉のどこかに真実が隠されているようで。
彼女は美しい女性だった。その美しさを利用して、いわゆるスパイのような活動をしていたのだ。
彼女のその情報網のお陰で命拾いをしたことも多々ある。そのため、彼女はジッリョネロでもそれなりの位置にいて、娼婦のような真似も黙認されていた。夫とそのことで口論になったことなど一度も無いようで、それが夫婦仲を物語っているだろう。
彼女の存在は、シーナを語る上で決して外すことのできないものだ。
良くも悪くも存在感を放つ、美しき皮肉的なスパイ。
彼女との口論の内容などもうすでに覚えていないが、ひとつだけ、忘れられない光景がある。
――――いいですか、γ。
*
突然現れた娘は、自らをシーナと名乗った。両親を訪ねてきたと言い、無謀にもアジトへ乗り込んできて、運良く命拾いした女だ。
シーナがこのファミリーに居ついてしばらくしてからも、俺は決して彼女の娘だと言うことを信じようとはしなかった。
顔は似ていたような気がする。娘だ、と紹介されれば納得できるくらいには。
けれど、両親がちょうど一週間ほど前に死んでいると知ったとき、シーナは泣いたのだ。それは『娘』の反応としては正しいものだったのかもしれない――――しかし、『彼女の娘』としては失格だ。家族は邪魔なものだとしか考えていない彼女の、娘としては。
シーナはアリアに殊更可愛がられていた。それはきっと、両親を殺させてしまったという罪悪感からのものであったのだろうが――――そうと指摘する人間は、俺を含め一人としていなかった。
「ちょっと太猿。アジトの部屋に女を連れ込まないでって何度も言ったでしょう!」
「連れ込んだ? おいおい言いがかりだろ。なんの証拠があって言うんだ?」
「そう? だったら、私の早とちりかな。貴方の部屋のゴミ箱にあるランジェリ
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