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皮肉を愛す女
皮肉を賛す女
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 赤く染まりつつある夕暮れの中。その人は、ぺたりと座り込んだまま動こうとしない私を困ったように見ている。響き渡るのは幼女の大きな泣き声。それを宥めるような声が、たまに聞こえたりもしていた。
 その日、私ははしゃぎすぎて。ツっ君を連れまわしたあげく、勝手に躓いて転んでしまった。当然のように私は盛大に泣き始めて、そんな私を見た彼は困ったように慰めていた。痛い痛いといつまでも泣き続け、空はゆっくりと赤みがさしていく。それに気づいたツっ君は帰ろうよと言い始める。暗くなる前に帰らないと、私たちは怒られてしまうことを、もうすでに知っていたのだ。
 それでも私は動かない。泣き続けるばかりで、返事もしようとしなかった。困り果ててしまったツっ君は、今にも泣きそうな顔で、私を見ていた。
 そして彼は、座り込んでいる私に手を差し伸べる。

「かえろうよ、椎菜ちゃん。いたいなら、ぼくがおんぶしてあげるから。かえろ?」

 ツっ君は昔から平均より身長が低くて、力も弱くて、平均的だった私をおんぶするなんて、絶対に無理だというのは幼いながらもよく分かっていた。それは彼だって分かっているはずで、だから、そんなことを言わせてしまった自分を恥じた。
 だから、頑張ろう、と思った。私は頑張れるのだと、その時なぜか実感したのだ。


 アリアさんが亡くなったときも、ジェッソのスパイになった翌日も、ユニを殺したその直後も、決まって思い出す光景がある。


 その人は、背後に赤々とした夕日を背負って、私に手を差し伸べる。


 その優しすぎる光景を思い出すたび、私は何度も泣きたくなるのだ。
 沢田綱吉。私の幼馴染。親友であり家族のような存在であり、私の愛しい愛しい人。

 私は彼に、もうずっと、恋をしているのだ。










*










 そこは私の部屋だった。私しかいない外界とは遮断された空間。数時間かけて、私は電話番号を押していく。迷いならたくさんあるけれど、でも、どうしても彼の声が聞きたかった。
 呼び出し音が三回。トルルル……トルルル……トルルル……。

『はい、もしもし?』
「……もしもし。ツっ君?」

 電話越しに、彼の焦る様子が伝わってきた。ツっ君、なんて呼ばれたことに驚いたのかもしれない。誰か分からない相手に突然そんなあだ名で呼ばれたら、確かに吃驚もするだろう。

『誰……って、椎菜か?!』
「うん。そうだよ。久しぶり」
『うわー、ほんとに久しぶりだな。今まで連絡もしないで、何してたんだよ』
「ん、ちょっとね。ツっ君は元気?」

 そんな、他愛もない話をして、私たちは会話を続ける。勘の良い彼は一体何を察したのか、突然消えた私の行方などは一切聞かないで、昔話と
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