第五章
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二人で」
また二人で言い合った。二人という言葉を夫も妻も言うのだった。
「行きましょう。それでね」
「ああ」
「これからもね」
自分の方からこれからと言う妻だった。
「行きましょう。二人で」
「一人で行っても面白くないだろうな」
「そうね。二人だと面白くないわ」
話しているうちにそれがどうしてか何処となくわかってきたのだった。どうして一人で食べても旅をしてもそれ程ではないのか。それがわかってきたのだ。
それがわかってくるともうこれまで考えていることが馬鹿馬鹿しくなった。自分でも馬鹿なことをずっと考えていたものだと思った・
そして言うのだった。夫に対して。
「四十年が終わったら」
「それが終わったら?」
「それで終わりじゃないわよね」
夫の目を見ながら話す。
「四十年で終わりじゃ」
「それからもか」
「四十年の後は五十年」
所謂金婚式である。ここまで辿り着ける夫婦はどうしても少なくなる。
「そして六十年ね」
「そうだな。六十年よりも先もな」
夫も妻の話に乗った。そのうえで話す。
「一緒にいるか」
(定年とかそういうのはもう)
また頭の中で考えるのだった。自分がこれまで考えていたことに対して。
(本当につまらない。馬鹿なことね)
それで離婚しようなどという考えがどれだけ詰まらない、浅はかで自分勝手な考えであるのかがわかったのだった。夫は自分とは全く違うことを、もっと素晴らしいことを考えていたことに気付いて。
(だからもう。こんな考えは)
捨てることにした。今そのことを左手に持っている茶碗を見ながら決めた。
「二人でずっとここにいましょう」
「ああ」
二人で笑顔で言い合う。こうして妻は離婚をその考えから消した。そうしてその左手に持っている夫婦茶碗でまた御飯を食べるのであった。これからも今と同じように二人で美味い飯を食べようと思いながら。
夫婦茶碗 完
2009・3・2
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