幽鬼の支配者編
EP.26 ミラジェーン
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思ってたから。……でも駄目だった。忘れようとしても、忘れられなかった……未練がましい、惨めな女よね」
「そんな、事……」
日常を壊したくなかった?
違う、私は傷つくのが怖かっただけだ。
辛そうな言葉を吐くミラジェーンの顔に浮かんでいるそんな自嘲の笑みは、銀髪に隠れて見えない。
まともに言葉を紡げないワタルをよそに、彼女の言葉は続く。
「諦めたはずだったのに……心のどこかで、いつも貴方の隣にいたエルザを羨んでいたし、自分が嫌だった。……そして、2年前――――」
「それは……」
2年前……嫌でも思い出されるのはリサーナの事だ。
辛い記憶に肩を震わせながらも、ミラジェーンは続けた。
「うん……リサーナが居なくなって、心が真っ暗になった気がしたわ」
身体を引きちぎられたかのような心の痛みと辛さに、彼に縋ろうかと思ったことは一度や二度ではなかった。
虚しさでも何でもいいから、暗闇……空っぽの心を埋めるものが欲しかったのだ。
でも、彼女の墓前で泣いていた弟の姿が……そして、僅かに残った女としての意地が彼女を引き留めた。
そんなもので彼を自分のものにしてしまっていいのか、残った弟はそんな情けない姉を見てどう思うだろうか、と。
「でも、同じくらい……いいえ、私よりも辛いはずのエルフマンが前に歩き出そうとしてるのに、姉の私が立ち止まったままでいいのか……そう思ったの」
だから伝える事にした。辛い過去にけじめをつけて、前に進むために。
ワタルを見上げるように、顔を上げてそう言ったミラジェーンの顔には自嘲じみた笑みは無く、いつもの穏やかで優しげでありながら、強さを感じさせる笑みがあった。
「ッ……強いな、ミラは……俺なんかより、ずっと」
人生の中で、大きい小さいの差はあれど、挫折を味わうものは幾らでもいる。
だが、一度折れた心を奮い立たせて再び立ち上がり、歩き出せる者はそう多くない。
辛い過去から逃げずに歩き出そうとする彼女の姿は、ワタルには眩しかった。
「ううん、そんな事ないわ。私の心には、いつも貴方の言葉があった。それに……6年前も、今回も、あなたが私を引き留めてくれた。だから、自分を卑下しないで」
「……ありがとう」
一度暗く考えると連鎖的にドツボに嵌っていく自分の悪癖は、ここでも顔を出していた。
首を振ってワタルの自嘲を否定し、それを払ったミラジェーンに、彼は感謝で返す。
「どういたしまして……で、返事は?」
まっすぐこちらに向いて聞くミラジェーンに、せめて誠実に答える事が彼女への礼儀だと、勝手ながらに思ったワタルは彼女の両肩に手を当てて身体を離すと、まっすぐに彼女の蒼い瞳と向き合う。
答えは決まっていた
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