第一章
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第一章
夫婦茶碗
「これでいいわよね」
「ああ、これにしよう」
若い夫婦が食器を買っていた。見れば茶碗を見て二人で話している。
「この茶碗をね」
「お揃いでね」
楽しそうな笑顔で二人で話をしている。二人はどうやら新婚らしい。そのやり取りにまだぎこちなさがあるしそれと共に初々しさもある。新婚特有の。
「それであなた」
妻の方から夫に言ってきた。
「これ買うじゃない」
「ああ」
夫は妻に言葉を返しながら顔を向ける。見れば二人共本当に若い。どちらも二十歳を過ぎたばかりである。
「これずっと持っていくのよね」
「それは当たり前だろう?」
夫はその言葉を当然といった顔で返すのだった。
「だって夫婦茶碗だよ」
「ええ」
「だったら当然だろ?ずっと持っておくんだよ」
さも当たり前といった顔で妻に語るのだった。
「それはな」
「そう。それじゃあ」
「ああ。ずっと持っていような」
優しい声で妻に答えた。
「ずっとな」
「そうね。ずっとね」
妻もあらためて夫のその言葉に頷いた。
「持っていましょう。二人でね」
「ずっと一緒だからな」
また優しい声で妻に語る。
「折角一緒になったんだから」
「ええ。一緒にね」
二人で言い合う。これがその茶碗を買ったはじめだった。二人はそれから長い間仲睦まじく暮らした。しかし子供達が大きくなってそれぞれ家を出て夫はもうすぐ定年という時になった。妻も歳を取り顔も性格も随分とくたびれてしまった。少なくとも二十代の時のあの初々しさは消えていた。
「本当にどうしたものかしらね」
一軒家の人を一人呼んでもまだ広いその部屋で卓を囲んで向かい側に座っている近所の自分と同じような立場のおばさんにお茶を飲みながら渋い顔で話をしていた。髪は白くなっていて顔には皺が深く刻まれている。
「うちの人もうすぐ定年だけれど」
「もうそうなるの」
「そうよ。早いでしょ」
自分と同じような外見ながら皺はより深く髪は黒いそのおばさんに対して話す。二人共髪は短くしていてパーマを当てている。この辺りもよく似ている。
「もうなのよ」
「確かここに来たのが三十年前だったわよね」
「結婚して十年目位だったかしら」
妻は遠い目をしておばさんに語る。
「もうね。本当に昔ね」
「それで御主人はもう定年なのね」
「ええ」
またおばさんに告げる。
「私も。年金貰えるようになるわ」
「貯金もあるのよね、確か」
「どれだけ生きられるかわからないけれど一人で生きる分にはあるわ」
こうおばさんに答えた。
「それだけはね」
「じゃあどうするの?」
おばさんはここまで聞いたうえで彼女に対して問うた。
「これからだけれど」
「別
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