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バス停で
第三章
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む顔と共に。
「自分でも止めようと思っていても言葉は出るんだから」
「僕もそうだったけれどね」
「あなたも?」
「実はね。そうだったんだ」
 彼もまた昔を懐かしむ顔になっていた。穏やかで優しげでそれを感じながら浸っている顔であった。その顔で妻に対して述べるのであった。
「あの時。確かに告白するつもりだったよ」
「じゃあ同じじゃないじゃない」
「それが違うんだ」
 彼もまた芭蕉を見ていた。見ているものは妻と同じものだ。考えていることもまた同じである。今は二人は同じになっていたのである。
「心の中はおどおどして。どう言えばいいかわからなかったけれど」
「言葉が自然に出たのね」
「そうだったんだ。多分君と一緒だね」
「そうよ、同じよ」
 夫の言葉に頷いて答えた。
「その通りなのよ。言葉が自然に出て」
「どうしてだろうね」
「さあ。けれど」
 紙子はずっと芭蕉を見ている。その芭蕉を見ながら夫に対して話すのだった。今は言葉と心が同じものになっている。それを自分でも感じながら。
「ひょっとしてね」
「ひょっとして?」
「それは何かが言わせてくれたのかも知れないわ」
 目をこれまでよりもさらに細めさせ優しいものにさせたうえでの言葉であった。
「何かがって?」
「それはわからないわ」
 芭蕉を見ながら語る。
「けれど。それで一緒になれたのよね」
「そうだね。それは本当だよね」
「ええ。それはね。本当ね」
 青い空からは黄金色の太陽の光が差し込んでいる。その光が芭蕉にもかかり芭蕉もその下にある大地も照らして生気を与えていた。それも二人には見えていた。
「そして私達みたいに」
「こうして告白して」
「結ばれるのね」
 今も芭蕉の側には多くのカップルがいる。そうしてそこで告白しているのだった。あの時の二人と同じように。何かに導かれて幸せになる為に。芭蕉の下で。


芭蕉の下で   完


                 2008・3・2

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