第二章
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自然に言葉が出た。自分でも驚く程度に。
「それもいいわね」
「いいんだ」
「ええ」
(どういうことよ)
顔では微笑んでいる。しかし心は全く逆であった。驚きを隠せずに呆然とさえしている。どうしてこんなことを言っているのか自分でもわかりかねているのである。
(ここでこんなことを言うなんて。断らないの!?)
「そういうことでね」
「よかった」
彼は紙子の言葉と顔だけを見てにこやかに笑っていた。ほっとしたような安堵の息も漏らしている。本当に嬉しいことがその様子からはっきりとわかる。
「断られるんじゃないかって思ったけれど」
「そんなわけないじゃない」
(そんなわけないって)
また己の言葉に驚く。心とは全然別のものだったからだ。どうしてそれが出続けるのか自分でもわからない。だが出てしまった言葉は取り返しがつかないのだ。
(どうして。こんな)
「じゃあさ。早速だけれど」
「ええ」
言葉はさらに続く。
「一緒に。バスに乗って帰ろう」
「そうね。最初はそれね」
(最初じゃないわよ)
これもまた己の心とは別の言葉だ。だから戸惑いを隠せない。しかしそれも顔にも言葉にも出ない。ただ心の中で驚いているだけである。
(このままだったら私この子と)
「僕の名前だけれどね」
「何ていうの?」
心とは完全に乖離してやり取りだけが続く。
「末永義巳っていうんだ」
「末永君ね」
「うん。真喜志さん」
「紙子でいいわよ」
この言葉もまた心とは別である。どうしても別の言葉になっている。
「気軽にね。だってこれから彼氏と彼女なんだし」
(どうしてこんな言葉をまた)
「彼氏と彼女なんだ」
「だってそうでしょ?」
心とは別の言葉がまた出る。
「だからよ。それでいいじゃない」
「それでいいんだ」
「そうよ。義巳君」
相手に対しても気軽に名前を呼ぶ。既にそれなりに長く付き合っているかのように。
「行きましょう。バス停にね」
「うん。それじゃあ」
「これからもね」
(またこんな言葉を)
どうしても出てしまう言葉に戸惑いを感じずにはいられない。しかしその戸惑いは何時の間にか少しずつ消えていた。次第に馴染んできていた。
(それでも)
心の中の言葉にもそれが出る。
(いいかしら。見ればこの子だっていけてる感じだし優しそうだし)
そうしたことがわからない程馬鹿でもない。だからこうも思うのだった。
(いいわね。やっぱり)
割り切った。元々さばさばした性格だ。だから決めたのだった。
「バスが来たよ」
義巳が声をかけてきた。
「乗ろう」
「わかったわ。それじゃあ」
「いや、何ともさ」
「いいもの見させてもらったよ」
ここでそれまで黙っていた周りが二人に声をかけてきた。にこにこと笑い
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