第四章
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第四章
「あまり。待っていません」
「そうですか。それは何よりです」
「ですが」
しかしここで言うのだった。
「ある方とお話していました」
「ある方?駅員さんですか?」
「いえ、違います」
その静かな微笑みで首を横に振って述べた。
「女性の方です」
「女性の方」
修史はそう聞いて周囲を見回した。しかし駅に女は誰もいなかった。
「おかしいですね。女性の方なぞ誰も。ましてや」
さらに言うのだった。
「男性の方もおられませんが」
「いえ、女性の方です」
修史が否定しても愛美は言うのだった。
「女性の方です。その方は」
「そうだったのですか」
「はい」
あくまでこう答えるのだった。
「その方とお話をしていました」
「その方とですか」
「ええ。ですが今はおられません」
微笑んで述べた。
「帰られました。もう」
「何処に」
「その方のおられる場所です」
答えはこれであった。
「そこに帰られました。それだけです」
「左様ですか」
「はい。お話は終わりましたので」
「そうですか。それでは」
「今からですね」
「そのつもりです」
修史は微笑んで愛美に答えた。
「行きますか、これから」
「はい。行く場所は」
「前にお話した通りです」
「東京ですね」
「そうです」
二人の中でこの答えはもう出ていた。
「今から。二人で」
「そして東京に辿り着けば」
「二人の生活がはじまるのですよ」
このことを愛美に静かだが確かに語った。
「これから。遂にです」
「そうですね。遂に」
「この村を出たその時からです」
ここで笛の音が鳴った。それが何か二人はよくわかっていた。
「ほら、今からです」
「東京への汽車ですね」
「あれに乗ればそのままです」
「間に合いましたね」
「不安でしたか?」
「それは」
ここで先程の自分自身との話を思い出す。しかし今はそれを語らなかった。既に終わった話であったからだ。彼女の中でもう既に。
「その。終わりました」
「不安がですか?」
「ええ。終わりました」
微笑みを修史に返していた。
「不安は。もう」
「不安が、ですか」
これは修史にとってはわからないことだった。目を少ししばたかせている。しかしそれでも愛美はそれでも言うのだった。静かに微笑んで。
「終わったのですね」
「もうありません。ですから」
「行けるのですね、東京に」
「修史さんにはありませんか?」
修史に対しても問うてきた。
「不安は。ありませんか」
「不安ですか」
彼はこの言葉を聞いてまずは目をしばたかせた。その間にも汽車が駅に迫って来る。彼が見ているのは汽車だけだった。駅の入り口の方は見てはいなかった。
「それは」
「ありませ
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