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短編集
春よ来い
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かに潤わせ、木々の淡い香りを匂い起たせる俄雨だ。
 だが、それは容易に人の体温を奪いさる。私は思考を切ってリフト乗り場の屋根の下に自転車と共に移動し、ベンチに腰を下ろして雨が通り過ぎるのを待った。
 リフトの傍の溝には、雪解け水が高低差故の音を立てながら下方へ流れ去っていた。雨が降る度、雪は早さを増して溶けていき、本格的な春が始まる。雨音だけでなく溝を流れる水の音も、春を構成する一つの要素なのだ。私は今正しく、初春に囲まれていた。
 雨が上がって暫くして、私は屋根の下を出た。その時ふと気づいた。動かないリフトの座席の一つに、一枚のスノーボードが置かれていた。うまい具合に手すりに嵌って、今の今まで落ちてこなかったのだろう。酷く傷んだそれは、荒廃という寂しさよりも、そう、春の訪れを物語っていた。
 私はそれを写真に収めるか逡巡した後きちんと写し、クロスバイクに跨ってその場を後にした。
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