第25話 初陣 その5
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…着任三ヶ月、いっこうになくてね。正直、こちらがタイミングを逸してしまったかと」
「は、は、は……」
「あれほど無能ぶっていたのに、なんにもアクションがないから逆にこっちが戸惑った。かといって迂闊にこちらから話しかけるわけにもいかないし。でも考えてみれば当たり前だ。君は艦隊指揮官候補として送り込まれたワケで、情報将校として送り込まれたワケじゃない」
「……はぁ」
「リンチ准将の目をくぐりながら、『ブラックバート』の情報を集める演技に、君も騙されてくれたことでこちらも準備はどうにか出来ている。エジリは君の行動に油断して余計な策を企てているし、第一艦隊の到着が遅くなることもエジリは察したことだろう」
俺は「あ」と思わず口に出して立ち上がった。
「じゃあ、第一艦隊はもう……」
「この新年三日ですでに事態を把握して、移動を開始している。リオ=ヴェルデ星域で反転し、既にバーラト星域外縁部に戻っているだろう。今回の作戦で『ブラックバート』の全組織を壊滅させるのは不可能かもしれないが、ケリム星域における活動は壊滅寸前まで持って行けるだろう」
「世間知らず、物知らずは小官の方だったというわけですね」
「悲観することはないさ。君のD星区における艦隊幕僚としての行動は、僕の目から見ても満点以上だ。あの根拠地に『置き土産』を仕組んでいることは想像がついていたけど、ああいう方法で犠牲者なく解決出来るとは思っていなかった。その上、君は情報参謀の力を借りずに、情報漏洩の事実を突き止めた。あれは僕にとっても冷や汗ものだったよ。エジリに感づかれたかと思った」
再び椅子に腰を下ろした時、もう俺は何も言うことが出来なかった。全てはカーチェント中佐の、そして同盟軍情報部と第一艦隊の掌の上で、必死に踊っていただけに過ぎなかったのだ。リンチもエジリも、そしてこの俺も。苦い教訓と言うよりも、己の卑小さ、尊大さを痛感せざるを得ない。原作知識があることで、普通の男の俺は人より若干遠くが見えていると思いこみ、相手を見下し、その全てを理解していると信じていた。
俺は前世で三〇年ほど生きてきて、一体何を学んできたのか。小説の世界に転生して、予言者のように振る舞い、順調すぎる人生を送ってきたことで自ずと尊大になり、うぬぼれ、人を登場人物としか認識できなかったのだ。悔しいというより自分に呆れて物が言えない。穴を掘って埋まっていたい。
「えらそうに言わせてもらえば、若いうちに世間が広いことを理解しておくことは、良いことだと思うけどね。じゃあ明日もがんばってくれたまえ。ボロディン中尉殿」
カーチェントの激励と宣告は、俺の心に重く重くのし掛かったのだった。
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