トワノクウ
第十七夜 黎明の神鳥(二)
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の中の母が炎の中でくうを孕んでいたように、くうの胎内から炎が産まれた。
内側から焼かれる。絶叫した。その先は覚えていない。
…
……
…………
「思い出した……私、一度死んだんだ」
自らの体内より生じた炎に焼かれて。
「じゃあ、どうしてくうは生きてるんですか……?」
我ながら頭の悪そうな質問だ。上手く訊けたら答えると梵天に言われたばかりなのに。
「その時、俺はその場に居合わせたんだが」
「それは、はい、分かります」
「俺はある事情で異変を察してね。駆けつけてみれば、相好の判別もつかないくらい焼け爛れた君と生まれたての白鳳がいた。人間で言うところの死産に似た光景だったよ」
死産。言い得て妙だ。あの時のくうはまさに彼女が産まれる前の記憶を辿っていたのだから。
人はごくごくまれに産まれる前後の己の状況を認識し、それを覚えていられるという。これを胎内記憶または出生記憶と呼ぶ。篠ノ女空は当然そのようなものは持ち合わせていなかった。あの声の主の呼びかけが、くうに始まりの記憶を思い出させたのだ。
「俺は死にゆくだけだった君の体から心≠取り出し、妖の体≠ノ移した。だから君はそうやって普通に生きて話ができるというわけだ。だが君ときたら、いや、この場合はその妖が、と言ったほうがいいかな。とにかく君はすぐ飛び去ったんだよ。心≠見て君の素性は知っていたが、焼け爛れていて顔が分からなかった。だから探し出すのに手間取って今に至るというわけだ」
くうはきっちり三つ数えてから、自身の、否、篠ノ女空ではない別人の肉体に手を当てた。
「これ、妖、ですよね」
「高位のね。――君が生み出した妖は白鳳という」
鳳。鳳凰のことだろうか。不死鳥とも呼ばれる、死と復活の火の鳥。不死鳥というとどんな傷でもたちどころに治るイメージがある。ああだから、くうは薫や潤たちに殺されてもピンピンしているのか。
「くうには不死の呪いがかかっていると朽葉さんが言いました。くうの体が白鳳になったからですか?」
「そうだよ。白鳳は死と再生をくり返す神鳥だ。中身が変わったとてその性質が衰えるものでもない。むしろ人間の意思が働いたことで外にも持ち前の再生力を向けやすくなっている」
なるほど。くうを助命しても梵天には得にならないのになぜ手間をかけて白鳳と融合させたか、ようやく分かった。
人間が混じった白鳳のほうが梵天には使い勝手がよく、たまたま近くに死に体のくうがいたからだったのか。
「くうは、くうでなくなったんでしょうか」
「そう感じるかい?」
くうは首を振った。
「篠ノ女空は篠ノ女空です。何も変わってなんかいません」
その答に梵天は満足げな様子だ
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