トワノクウ
第十七夜 黎明の神鳥(一)
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自分の中に好意という感情が存在すると思ったことはなかった。
誰かを特別好きになる己の姿は思い描くことすらできなかった。
その漠然とした自己像を壊したのは二人の人間。
敵であるはずの、おかしな性格の姫巫女と。
親の無念と友の恨みと弟の怒り、全て独りで抱えられる?
その姫巫女を救う力を自分に授けた、美しい姉だった。
彼女とは眠りに落ちたあとの夢で幾度となく逢瀬を重ねた。
この世を見晴るかすことはできても直接関わることは許されない彼女には、自分が唯一の慰めだったのだとのちに知った。
鶸、っていい名前ね。緑ちゃんのそっちでの名前。私、好きよ
どこに好きになる余地があるんだ、こんな酷い名前
私達の名前、組み合わせたら色になるのよ。素敵でしょ
色……?
そう。二人でやっと一色。素敵な巡り合わせじゃない
――それは初めて見つけた対の翼。
生まれて初めて、矜示が高い自らの上に立つのを認めた者。
彼の中にも「好意」というものが存在することを教えたきょうだい。
自分と自分の周囲を含む世界を維持するために、常に時間と自由を奪われ続ける、非業の天人。
私はいいの。もう私の現実には、私の大好きな人がいないから
それでも、姉さんの居るべき場所はここじゃない
……もう、いいの
他人に根ざした明確な願いを持つことなどないと思ったのに。
ああ、俺はこの愚かしい姉が愛しかったんだ――と。
気づけば、自覚をためらわないほどに、彼女に好意を抱いていた。
思えばそれが動機で、すべてのはじまりだった。
***
朝。目覚めて見えた天井は知らない木目だった。
くうは布団から体を起こす。ブラインドを縦にした感じの半蔀からは朝陽が部屋に射し込み、格子状の光と影を、膝に乗せたくうの両手の上に作る。
(そっか。天座の塔でした)
泣くだけ泣かせてもらったあと、梵天が部屋を貸してくれるというのでそのまま休んだのだった。
(人前で泣いたのってはじめて。泣くこと自体めったにないもん。ここ最近は家でも一回も泣いてないのに、会ってすぐの男の人の前で、あんなに……)
くうは熱くなった頬に両手を当てた。思い返せば人生最大の痴態だ。今すぐモグラと一緒に仲よく地底に潜りたいくらい恥ずかしい。
ひとしきり悶えて後悔してから、くうは諦めて布団を出た。
意外にも冷静だった昨夜の自分が枕元に畳んでおいたドレスを取る。あれだけ弾丸を浴びたのにドレスは元通りだ。例の再生力はドレスも肉体の一部と見なしたらしい。
空五倍
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