2…2
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すう、ふー、と深呼吸してから、腰を落とし、右肩に担ぐように剣を持ち上げる。今度こそ規定モーションが検出され、ゆるく弧を描く刃がぎらりとオレンジ色に輝く。
「りゃあっ!」
太い掛け声と同時に、これまでとは打って変わった滑らかな動きで左足が地面を蹴った。しゅぎーん!と心地良い効果音が響き渡り、刃が炎の色の軌跡を宙に描いた。片手用曲刀基本技《リーバー》が、突進に入りかけていた青イノシシの首に見事に命中し、こちらも半減しかけていたHPを吹き飛ばした。
ぷぎーという哀れな断末魔に続いて巨体がガラスのように砕け散り、俺の目の前に紫色のフォントで加算経験値の数値が浮かび上がった。
「うおっしゃぁぁぁ!」
派手なガッツポーズを決めたクラインが、満面の笑みで振り向き、左手を高く掲げた。ばしんとハイタッチをかわしてから、俺はもう一度笑った。
「初勝利おめでと。……でも、今のイノシシ、他のゲームだとスライム相当だけどな」
「えっ、マジかよ!おりゃてっきり中ボスかなんかだと」
「んなわけあるか」
笑いを苦笑いに変えながら、俺は曲刀を腰の鞘に収めた。
口では茶化してしまったが、しかしクラインの喜びと感動は良く解る。これまでの戦闘では、経験・知識ともにクラインより二ヶ月ぶんも上回る俺だけがモンスターを倒してしまったので、彼はいまようやく自分の剣で敵を粉砕する爽快感を味わうことができたのだ。
おさらいのつもりか、同じソードスキルを何度も繰り出しては楽しげな奇声を上げているクラインを放っておいて、ぐるりと周囲を見回す。
四方にひたすら広がる草原は、ほのかに赤みを帯び始めた陽光の下で美しく輝いている。遥か北には森のシルエット、南には湖面のきらめき、東には街の城壁を薄く望むことができる。そして西には、無限に続く空と金色に染まる雲の群れ。
巨大浮遊城《アインクラッド》第一層の南端に存在するスタート地点、《はじまりの街》の西側に広がるフィールドに、俺たちは立っている。周囲では少なからぬ数のプレイヤーが同じようにモンスターと戦っているはずだが、空間の恐るべき広さゆえか視界内に他人の姿はない。
ようやく満足したか、クラインが剣を腰の鞘に戻しながら近づいてきて、同じようにぐるっと視線を巡らせた。
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