第24話 初陣 その4
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まで楽天的にはなれんよ。なにしろイゼルローン回廊には二回。戦艦の砲手として、また駆逐艦の艦長として、あの要塞に接近したからな」
腕を組み笑顔を浮かべて、エジリは再びベコ人形になる。
「君は雷神の槌(トールハンマー)を知っているかね? あの恐るべき要塞砲。いや知識としては君もご存じだろうが、実際にその目でその威力を見なければ分からんよ。一瞬にして僚艦一〇〇〇隻以上が消滅する恐怖。こちらの砲撃が全く効果を挙げない要塞表面の流体金属……とても落とせるとは思えんな」
「……」
「あの要塞は難攻不落だ。近づかないに超したことはない。つまり我々には戦略的選択権がないのだよ、帝国軍は攻めてくる。我々はそれを迎え撃つ。帝国軍が止めない限り、戦争を止めることなど出来はしない。無用な犠牲を増やしたくなければ、その位は理解して欲しい処なんだがな」
そう言ってエジリは席を立つと、俺の肩を二度ばかり軽く叩いた。
「夢を見るのは悪い事じゃないが、現実を無視するのは良くないことだ。君がそれなりに真面目で、有能な人材であることは僅かな期間だけ見てきただけでも分かる。だからせめて無用な犠牲を出すような軍事指揮官にはなって貰いたくないね。そして早いうちに夢から覚めて貰いたいものだ。年老いてから夢破れた哀れな例を幾つも見てきた私の、たいしたことのない助言だがね」
部屋を出て行くエジリの姿が、扉の向こうに消えた後、俺は再び端末画面に向き直った。
現在の軍指導者も、将来の指導者も、おそらくエジリの言うようにある意味では楽天的な人間であるかもしれない。自らも戦列に加わるとはいえ、トールハンマーの前に六度も兵力を展開したのだから。だが同時にエジリが言ったとおり、イゼルローン要塞が難攻不落であることを同盟側に理解させた上で、帝国は攻撃選択権を行使している。故に彼は戦争は終わらないと考えてしまう。
あの要塞を落とすことが平和への道であるとは限らない。それはヤン=ウェンリーのいうとおりでもある。イゼルローン要塞を攻略せず帝国の侵略を防ぐ方法なら、イゼルローン回廊出口付近に要塞と機雷による封鎖網を築けばいいだけのことだ。ただし、建築中にイゼルローンから出てくる帝国艦隊の妨害がなければという前提で。だがそれすらもガイエスブルクのような移動要塞という戦術でクリアできるだろう。
問題は同盟にそれだけの技術がないことだ。防衛衛星クラスの自動要塞は作れても、ダゴン星域会戦以来の機動縦深防御戦略思想が、その分野での技術進展を遅らせている。そうダゴン星域会戦。一四〇年前のあまりに絢爛たる勝利が、同盟の軍事技術と軍事戦略を一つの方向に固定してしまったのだろう。
だが、今更それを悔やんでいるわけにはいかない。技術は時間を重ねる毎に進歩する。ガイエスブルクが移動要塞にな
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