第一部 学園都市篇
第3章 禁書目録
25.July・Midnight:『Accelerator』
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われた横笛のような。或いは、くぐもった狂おしき太鼓の連打。常人では、まともな感性では、とても正気を保てはしまい。とうに狂った感性ならば、既に人間ですらなくなっていよう。
「───────…………?!」
そんな魔人を真正面に、嚆矢が正気を保てているのは────何の事はない、魔人にその気がない、ただそれだけだ。
その左手、無造作に持つ一冊。この世にあり得ざる、緑色の獣皮で装丁された書物。遥かなヒューペルボリアの地底に潜む『土星からの旧支配者』の恩恵に預かった大魔導師の名を冠した、或いはかの“死霊秘法”にすらない記述を持つとされる魔導書中の魔導書────邪悪の一代集大成“象牙の書”。
「……『教授』が手を引いたなら、余程の事が無ければ彼らは手を出して来はしない筈です。安心して、君は君の『日々』を廻してください」
「──『廻す』……」
その気配を、刹那に霧散させて。穏やかな薄明かりに彩られ、しっとりと落ち着いたブルースの流れる、静かな夜の景色が帰ってくる。
久方振りに感じた悪寒と戦慄、否、少し前にも。命の危機などと生易しいレベルではなく、絶望的な格の差として……『レイヴァン=シュリュズベリィ』と名乗った“セラエノ断章”の主にも感じたもの。
そして、何故か心を震わされた……その一言────『廻す』。その一言に集中した故に、触発されて思い出す。ずっと昔、その『言葉』をよく聞いていた事に。
『ふむ……つまり、“確率を操る能力”とは。成る程、そういう仕組みか。大したものだ、正体不明の怪物くん?』
「ッ────?!」
忌まわしい、『白い部屋』の記憶と共に。嗄れた老人の声が、脳内、忘れえぬ『自覚する無自覚』から漏れ出して。
吐き気を催す。それは目の前の師父、魔人の放つ瘴気よりも尚、色濃いトラウマを呼び起こす────本物の“狂気”を孕んでいて。
「少し、口が過ぎました。すみません、師匠」
「おや、そんなに気にしなくても」
それを辛うじて堪え、突き掛けた膝に喝を入れて。十倍返しで返ってきた意趣を、受け止める。その、変わらない微笑みも自業自得だ。
ジュラルミンケースを受け取り、一礼する。自分で巻いた種だが、居づらくて仕方無い。
「それじゃあ、また」
「ええ。それでは、また」
背を向けた弟子に、来た時と全く同じ姿勢のままで氷を球形に削りながら。新しいグラスにそれを納め、ブランデーを注ぎ─────空になったグラスの代わりに差し出した。
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