絆固めて想いを胸に
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――せめて一騎打ちはせずとも、部隊で抑え込む事くらいはさせて欲しい。
どの部隊と戦うかは陣容にもよる。一騎打ちをしないという武人としての在り方に反する事は認められても、戦人として逃げ出す事は出来ない。
ぶつかる視線は緊迫感を軍議場に広げていく。
「アレは……“紅揚羽”は武人では無い。戦人でも無い。将ですら無い。率いる部隊は死兵の群れ。あいつ自身も生ける屍のような奴だ。目的の為には手段を選ばん。得たい結果の為なら、命も誇りもゴミクズのように捨て去るだろう。
さらに言えば、今のあいつには強い羽がある。田豊が戦略的な軍師として据えられ、主だった戦場に出ずにいた徐州の時とは違うのだ。共に居られる今回は比べものにならん力を発揮するだろう。
まあ、単純に言い表すのならば……鳳統が率いる徐晃隊の先頭で、徐晃が戦いながら戦況を操っているようなモノだ。ソレが来た場合、私、姉者、霞の誰かが本気で当たらなければ……」
秋蘭はチラと稟に顔を向け、コクリと頷いた彼女を見て凪に視線を戻す。
「お前達二人程度では死ぬ」
はっきりと、きっぱりと言い切った。相対するには戦力外だと。
二人で掛かれなどとは言うはずも無い。それが通用する相手であるなら、こんな話を秋蘭はわざわざ出さない。
「しかしっ」
「兵の命よりもあなた達将の命が優先される戦、この延津では、誰一人としてあなた達のような将を死なせてはダメなんですよ。
一人の勝利よりも部隊の勝利を、部隊の勝利よりも軍の勝利を、一つの戦場の勝利よりも“戦”の勝利を。あなた達が敵わない事も、既に幾多の道筋の一つに組み込まれています。失われる兵の命は……勝利でしか報われない」
稟の冷たい言葉は鋭利な刃のよう。グッと詰まった凪に対して、沙和は哀しげに眉を寄せた。
重苦しい空気の中、季衣は首を捻る。
「……あの人、そんなに怖いんですか?」
場に空白が挟まれる。その無邪気な声が、何よりも異質に思えた。
「ああ、怖いよ。アレは異端者の類だ。お前や凪、沙和には分からんだろう。
武人に成れたモノが土台を積まずに、狂おしい程に身を焦がす想いを先に持ってしまった末路がアレだ。その点で言えば……いや、なんでもない」
言い含んだ秋蘭はそれ以上話すつもりは無いようで、自嘲のような微笑みを浮かべて黙り込んだ。
凪も沙和も季衣も、一様に訝しげに眉を顰めるだけで、続きを聞こうとはしなかった。
コホン、と咳払いを一つ。稟が眼鏡を指で押し上げ、引き締まった表情で口を開く。
「とりあえず、部隊同士がかちあった場合、張コウの相手は予定通りあなたに任せます」
「ふふ、任されよう」
どうか無理はしないように、とでも言いたげな眼差しに、秋蘭はにやりと口角を吊り
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