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乱世の確率事象改変
絆固めて想いを胸に
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なぁ」
「思い出したら……きっと苦しみますよ?」
「それでもさ、黒麒麟ならこうするだろ。どうせ俺の事だから、誰かを傷つけても進むんだ」
「やっぱりあなたは……」

――秋斗さんです。

 今まで一度も呼ばなかった真名を心の中でだけ呼んだ。
 戻ってきた時にだけ呼ぼうと決めているから、呼ばない。その一つの決心が、どれだけ今の彼を否定しているかも分かっていながら。

 必要とされる事が嬉しい自分と

 自身は必要ないと思っている彼。

 どちらも度し難く、救えない。

 月の身体の震えが強くなった。
 雛里を一番傷つけて、一番安らぎを与えられる方法は一つだけ。固く閉ざされた心の殻をはぎ取るには、一度だけ、彼女の事を彼が泣かせなければならない。
 締め付けられるような声音で、彼が言葉を零した。ずっと支えてくれた月と二人だけだから、苦しくてもカタチとして誰かに示した。

「俺に鳳凰は必要ない」

 その言葉がどれだけ雛里を絶望の底に落とすのか。明確に理解している月は涙を流した。
 自分を見てと願った少女に突き刺す刃は鋭く残酷に思える。それでも、殻だけを割いて、幸せを探す羽をもう一度広げられる……大空から、黒麒麟を探して欲しいと願った。

 そして黒き大徳は鳳凰を求めず、雛里という少女の幸せだけを求めていた。




 †




「張コウとだけは戦うな」

 普段は蒼い髪で隠れがちな片方の眼から厳しさを宿して向けられた視線。反抗する事も、疑問を返す事も許されない神妙な面持ちで語られる。
 その真剣さに、息を呑んだのは二人。

「どれだけ兵士を殺されようと、一騎打ちの誘いを投げ掛けて来ようと、彼奴が自ら向かって来ようと、お前達二人はあいつと相対しそうになったら直ぐに逃げろ。何があってもだ」

 重ねられた言は注意の域を超えていた。警告ですらない。強要、とも違う。それは必ず従わなければならない、絶対遵守の命令に等しい。
 灰色の髪が揺れる。眉間に刻まれた皺は深く、噛みしめた唇は尚も力強く。
 凪にとって、逃げろと言われてはいそうですかと引き下がる事は出来ない。
 身の内に宿す誇り故、否。
 共に戦う兵士達、友達、上司……皆を守らずに逃げるなど、彼女の信念に反するモノだ。何より、兵を率いる将が敵将に背を向けて、臆病さを見せてどうするのか。
 秋蘭の視線を真っ向から受け止めて、凪は重く、苦しい声を発した。

「従います。ですが……」

 其処まで紡ぐのが限界であった。
 上司に意見を投げるのはあまりいい事では無い。個人の不満をカタチにして表す事も、戦前では部下の取るべき姿でもない。
 それでも、彼女が彼女として戦う為に、暗に示してでも、聞いておかなければならないのだ。

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