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乱世の確率事象改変
絆固めて想いを胸に
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持たせて。
 雛里の思惑は彼の土台を先に作り上げる事だった。彼が前のように、傷つきながら進む人にならないで済むように、と。
 嗚呼……と悲哀が込み上げる。雛里の想いは、自分の抱くモノよりも尚大きいと感じたから。背を包み込んでくれる暖かさを受けるのは、やはり彼女であって欲しいと思った。そして、彼女が心の底で願い続けているはずの幸せを与えてあげたかった。

――だから今は思惑に乗ろう。戻らない賽の目はそのままでいい。私は新しい賽を振りなおす。彼が戻るまで、何度でも、何度でも。黒き大徳を成長させた上で、黒麒麟に戻って貰おう。

 深く息を吐いた。心に芯を通す為に。
 彼に王の理を教えるのは月の役目である。華琳や月と同じ高みに上らせるには、彼に言っておかなければならない事がある。

「一つ一つの命に拘ってはいけません。それを人は恐れるでしょう。憎み、蔑み、責めるモノがいる事でしょう。
 ですが、個々の死を受け入れ、背負って尚、真っ直ぐに目指す目的を見据えて歩みを進める……それが王です。嘗てのあなたはその重圧に耐えていましたが……」

 続けずとも、彼には伝わる。

 あなたにそれが出来ますか? 将も兵も軍師も、人の命全ての責が覇王の双肩に乗っている今であっても。

 桃香に全ての責があったはずの劉備軍で、秋斗もその責を背負っていた。曹操軍では出来るはずも無いが、それを出来るかと問いかける月は矛盾している。
 されども、二人だけに分かるモノ。

「出来るか出来ないかじゃない。やるかやらないか……だから俺はやりきるよ。俺は徐公明だが、“徐晃”じゃないからな」

 張りのある重苦しい声が耳に届く。
 謎かけのような返答に問い返す事はしない。真意は、月には分からなかった。

――黒麒麟だったけど今は違うってことだろうか。

 不満を伝えるように月光が嘶く。それでは不足だとでも言わんばかりに荒々しく地を蹴った。
 喉を鳴らして、秋斗はため息を吐いた。

「ありがと、ゆえゆえ。完全に拘るなってのは無理だけど、絶対に遣り遂げるって誓うよ。でも、ごめんな、お前さんをこれから先、利用する事になる」

 器用に手綱を片手で持って、彼は月を緩く抱きしめた。そうされて初めて、自分が震えている事に月は気付いた。
 心の内を見つめると、哀しみと嬉しさがあった。
 初めて抱きしめられて幸せは湧いた。別の嬉しさも湧いてきた。申し訳なさも多分に湧いた。
 回された腕に手を添える。もう大丈夫ですからと……軽く叩くはずが握ってしまった。まるで、放さないでと伝えてしまうように。育つ恋心は、こんなにも抑えがたく愚かしい。

「あなたは黒です」
「ああ、俺は黒だろう」
「“彼女”と私の為の黒です」
「天に輝く光があったら黒も出来るわ
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