絆固めて想いを胸に
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神速に、頭が付いてこれへんやったら素直に秋斗んとこ戻りや」
負けん気の強い詠の気質を知っているからこそ、信頼を含ませて発破を掛ける。
ポス、と霞の背に拳を一つ。詠は小さく鼻を鳴らした。
「ふん、ボクが居て良かったって、絶対に言わせてあげるんだから。今回、霞の背中を押すのはボクの役目よ。誰にだって譲ってあげない」
その優しい光景に、秋斗と月の頬が自然と緩む。
いつまでも此処に居たいような気になっていたが、直ぐに戻らなければならない為に、月が表情を引き締めて、秋斗の服の裾をクイと引いた。
彼女を見ずに小さく頷いた彼は、ゆるりと片手を上げて声を掛けた。
「じゃあ霞。えーりんの事は任せた」
「任しときぃ……ってなんや? 手ぇなんか上げて」
振り返り首を傾げる霞。秋斗は涼しげな笑みを浮かべる。
「二人で手を叩けばバトンタッチ。ま、役割交代の合図って感じだ。他にもいろんな意味があるけど、それは次会った時にでも聞いてくれ」
「ふーん、ばとんたっち、なぁ……よっしゃ、なら秋斗の役割、確かに貰い受けた。月の事は任せとくでー」
パン、と乾いた音が鳴った。猫っぽくにやける霞と目を合わせて、秋斗も悪戯が好きな子供のように喉を鳴らす。
月はそれを眺めていた。二人のやり取りに心が弾む。絆が結ばれていく様子は、近くで見ているだけで爽やかな風を心に送り込んでくれる。
「ふみゅ」
むにっ……そんな音が聴こえるかのよう。月のもちもちした頬を詠が不意に摘まんだ。
任すだの任せろだのと本人が置いてけぼりなまま言われているが、守られる事に不満は無いし、悪い気もしていない。
ただ、月が穏やかな表情で彼らを見ていて、自分だって、という気持ちが湧いてきた。
「え、詠ひゃん?」
「ボクだって、守られるだけでなんか、居てあげないんだから」
ふにふにと動かす指は不満からか。合わされる瞳には負けん気が轟々と燃えていた。
自分も何かしたい、一つでも多く守りたい、もっともっと……それは彼らと共有出来たモノ。
何もするななどとは命じられていない。大人しく待っていろなんて、彼女にはもう無理であった。泣きそうになっていた霞や、戦いたいのに戦うなと言われた秋斗。その二人を支えたいという心は当然ある。
しかし、侍女として兵士達を励まして、支えて、元気づけて、盛り上げて……彼らの笑顔を見てきたら、どの部隊の兵士であろうと一つたりとて命を失わせたくなんか無かった。
全てを救うなんて事は到底無理な話。出来る訳が無い。それが戦争。
冷徹に戦を運ばなければならない軍師としては持つべきでは無い想い。それでも、彼の隣で雛里と同じ位置に立とうとしていく内に、芽生えてしまったしまった強い想いであった。
風と稟は、そ
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