神風と流星
Chapter1:始まりの風
Data.5 波乱の会議・後編
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このままだと会議が進行しそうにないし、もう面倒くさいからこっそり帰ってしまおうかとまで考え始めたその時、舞台を再び動かす奴の声が聞こえた。
「発言、いいか」
低い男の声が、広場の虚空に響いて溶ける。
声の主を見てみると、ちょうどそいつは人垣の左端から出てくるところだった。
恐らく百九十はあるであろう巨躯に両手用戦斧を背負った、チョコレート色の肌と彫りの深い顔立ち、スキンヘッドが印象的な男。
日本人離れした容姿を持ったその男は噴水の傍にまで進み出た後、広場に集まっているプレイヤーに会釈してから、見下ろせるほど身長差のあるキバオウに向き直った。
「オレの名前はエギルだ。キバオウさん、あんたの言いたいことはつまり、元βテスターが面倒を見なかったからビギナーがたくさん死んだ、その責任を取って謝罪・賠償しろ、ということだな?」
「そ……そうや」
一瞬気圧されたキバオウだが、すぐに前傾姿勢になってエギルとやらを睨みつける。
「あいつらが見捨てんかったら二千にも死なんかったんや!しかもただの二千人やない!他のMMOでトップ張っとったベテラン達や!アホテスターどもがきちんと情報やらなんやらを共有してれば、今頃はもっと上にいたはずなんやで!」
その二千人の中にβテスターだった奴が一人も入ってないと思ってるのかこのアホは。
詳しい数はわからないが、俺の予想では恐らく三桁以上の元βテスター達が死んでいる。この世界はβテストの時とはほんの少しだけ違う。そしてそのほんの少しの違いが致命的なのだ。
βテストに慣れきりその知識に依存しきった元βテスターの奴らほど、この罠にかかりやすい。些細な違いを見落とし、自分の力を過信するからだ。
「あんたはそう言うが、キバオウさん。金やアイテムはともかく、情報はきちんとあったと思うぞ?」
そう言うとエギルとかいう巨漢の戦士は大型のポーチから一冊の本を取り出す。表紙には、丸い耳と左右三本づつのヒゲを図案化した《鼠マーク》。
「このガイドブック、あんただって貰っただろう。ホルンカやメダイの道具屋で無料配布してるんだからな」
「む、無料配布、だと……?」
隣で呆然と呟くキリトに話を聞くと、どうやらアレはアルゴが作ったガイドブック。通称《アルゴの攻略本》らしい。表紙の下のところに大きく書かれた【大丈夫。アルゴの攻略本だよ。】という言葉もあながち間違いではないほどの情報量らしく、記憶保管のためにキリトも全巻購入済らしい。ちなみに俺はその存在すら今知ったくらいなので当然持ってない。
だがキリトの話によるとそれは一冊五百コルと、なかなかな値段設定のアイテムらしいのだが……
「……わたしも貰った」
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