魔石の時代
第四章
覚悟と選択の行方1
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血鬼の一族である、私達なら。
「ちょっとすずか!?」
それは血の匂いだ。この距離でもはっきりと分かるのだから、かなり酷い傷を負っていると考えていい。その誰かが心配なのか。それとも単純に血が恋しくなったのか。自分でも分からないまま走る。
いや――本当は多分、その血の匂いに違和感を覚えたからだろう。
「ちょっとすずか、急にどうしたのよ!?」
「多分、この辺りに誰かいるよ! その人はきっと怪我してる!」
「こんなところに誰がいるのよ?」
今私達が走っているのは、工事中の場所だった。とはいえ、今は誰もいない。多分、酷い怪我をしているであろうその人以外には。
夕闇の中、地面に何かが転がっているのが見えた。はっきりと血の匂いがする。
「きゃああああああっ!?」
アリサが悲鳴を上げた。
「酷い傷……ッ! 早く病院に連れて行かないと!」
実際酷い傷だった。その大きな赤毛の犬が負っている傷は。
「分かってる。ちょっと待って、鮫島に連絡するから!」
慌ててアリサが携帯をとりだす。
(あれ、でもこの血の匂いって……?)
人間のような気がしたのだけれど。違和感の正体はそれだった。何の血の匂いなのか。いつもなら感覚的に分かるはずのそれが分からなかったからだ。
「いいから! 大丈夫だから大人しくしてなさい! いい子だから! ――あ、鮫島!? お願い、早く来て! 場所は――」
考え込んでいる間に、その犬は立ち上がろうと足掻き始める。その度に、傷口から血が溢れだす。慌ててアリサと二人で押さえつける。動いたら余計酷い事になってしまう。
「――イト……」
(えっ?!)
その犬が、今誰かの名前を呼んだような気がした。家への電話で必死なアリサは気付かなかったかもしれないが――そのアリサを見て、確かに。
「ごめん……」
今、確かにこの犬はそう言った。
(ひょっとして、この子は……)
一つだけ、可能性が思い当った。この子とよく似た存在が私の家にもいる。高町光――いや、魔法使い御神光が私達を守るためにくれた子達だ。
(お姉ちゃんに連絡しないと!)
アリサと二人で可能な限りの止血をしながら待っていると、やっと車のエンジン音が響聞こえてきた。
「こっちよ鮫島! 早く来て!」
誰かが走り寄ってくる。見知った顔だった。
「これは……」
さすがの鮫島も言葉を失ったらしい。
「急いで病院に運びましょう」
だが、すぐに正気に戻り、彼はその子をそっと担ぎあげた。それだけでも血が滴る。
「お願い!」
彼の跡を追って走り出すアリサを追う。姉への連絡より、今はあの子の無事を確認するのが先だった。
そして、
「傷は刺創、坐創、熱傷……つまり、刺し傷と打撲、火傷が主ですね。どれも酷いものです。幸い容態は安定しましたが、も
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