魔石の時代
第四章
覚悟と選択の行方1
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それこそ、木材を持った連中に追い回されもしたし、石を投げられたもある。とはいえ、仮にも救済した当の本人に決闘を挑まれた事はさすがにリブロム達の記憶にもなかった。……まぁ、救済したはいいが、本人が魔物時代の罪の意識に押し潰された逆恨みやら、救済された後の生活での艱難辛苦やらが原因で生じた殺意が理由で殺されそうになった事は何度かあるようだが。
「お前が優れた魔法使いだからだ」
理由を訊いても?――そう訊ねた自分に、彼女は一切の迷いなく言いきった。自画自賛とは別の意味で、それを否定する事は出来ない。恩師の魂。人間の英知の結晶である魔法大全。そして、『奴ら』の力と記憶を引き継いでいるのだ。それで人並み以下だったなら、それこそ恩師達に申し訳が立たない。とはいえ、それを知っている人間などごく僅かだ。まして、彼女がそれを知る機会があったとも思えない。それに、申し込まれたからと言っていちいち受けて立つほど自分は戦闘狂ではないつもりだ。
何と言ってお引き取り願おうか。そう考えていた自分に対して、彼女はどうしても無視できない一言を放った。
「それに、かつて世界を牛耳っていた怪物を殺した魔法使いの血縁者なのだろう?」
彼女の言う怪物は『マーリン』である事は疑いなかった。世界が復興してから、もう随分と経つが……それでも、あの怪物は今も恐怖の象徴として名を残している。
しかし、よく調べたものだ――思わず呻いていた。血縁者どころか本人なのだが……それももう、随分と昔の話だ。だから、時折自分の素性――主に人並み外れた魔力や再生力の由来が疑われた時には血縁者である『らしい』と言い訳をした事は何度かある。それは事実だった。
だが、だからと言って何故自分が決闘を挑まれなければならないのか。
「最高の戦士になる。そう、父に誓ったからだ」
素直に問いかけた自分に、彼女はそう言った。
なるほど、それが彼女の欲望か。その時はそう思った。最高の戦士になること。それがあの魔物を生み出した原因だと。それは、確かに理由の一つだったが、真因ではない。だが、それを自分が理解するにはしばらく時間が必要だった。
彼女の背負うしがらみを経験から推測する事が出来なかった――というのは、まぁ言い訳としては上等だ。だが、結局のところ目の前の分かりやすい事実に囚われ、その理由にまで思いをはせる事が出来ないただの若造だったというのが正しいところだろう。
まったく、我ながら情けない。この時点で、自分は不老不死の怪物だったというのに。
とはいえ……言い訳ではないが、他者と分かり合うのは難しい。異なる主義主張を抱えているならなおさらだ。それは永遠の時を生きたとしても変わる訳もない。
お陰で彼女と少しだけ分かりあえるまで、随分と時間がかかってしまった。その時間が無駄だったとは思わないが―
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