魔石の時代
第四章
覚悟と選択の行方1
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今さら、改めて言うような事ではないが。
自分が初めてこの世界に生まれた時、すでに世界は『呪われた魔法使い』という名の脅威に曝されていた。ロムルス人の帝国などすでに見る影もなく、アヴァロンもグリムもすでに組織として存在してはいなかった。生き残った僅かな人間は誰もが皆一様に怯え、息をひそめて細々と生きているだけだった。
もちろん、当時はただの人間に過ぎなかった自分とて例外ではない。物心ついた頃にはすでに両親はいなかった。それは珍しくもない事だった。幸運だったのは、自分が所属していたその集落が良心的な場所だったと言う事だろう。決して裕福だったとは言えないが、それでも周りの大人は親切に育ててくれた。
自分の出自を知るのは、もう少し先の話だが――両親……少なくとも、自分をこの里に連れてきたのは魔法使いだったらしいという事は、物心ついた時から村長達に聞いていた。深手を負って迷い込んできたその魔法使いは、たまたま集落を襲っていた魔物を排除し、救済してから力尽きたという。今際の際に、自分を託して。自分を育てるというのは、その魔法使いに対する恩返しの意味もあったのだろう。とはいえ、それが十全の善意による行動だったかと言われれば、それは違うと言わざるを得ない。
結局のところ。数少ない――幼い同胞を見殺しにするというのは、人間という種の未来を減らす事でしかない。それを感覚的に悟っていたからだろう。あるいは、単純に働き手が必要だったのか。……それとも、ただ単に子を失った親も多かったからかもしれない。自分の世話を買って出てくれた老夫婦は、時々自分の事を違う名前で呼ぶ事があった。
何であれ絶望に塗り固められた世界で、幼い命に希望を見出していた、なんて綺麗事を考えていられた物好きが、後の自分以外に全くいなかったとは思いたくない。そんな綺麗事を考えられた人間がいたからこそ、世界が終わった後も人間はただの獣ではなく、どうにか人間らしく生き伸び続けてきたのだ。少なくとも、自分はそう信じていた。
ともあれ。例え終わってしまった世界であっても、振り返ってみれば必ずしも悪い事ばかりではなかった事は事実だった。
諸悪の根源であると考えられていた『呪われた魔法使い』に対抗できる存在がいるとすれば、それはただ一つ。魔法使いしかありえなかった。だからこそ、自分が生まれた世界では魔法使いは嫌悪されていなかった。ロムルス人もセルト人ももはや関係なく、誰もがいつかその魔法使いを討伐しうる魔法使いの誕生に微かな希望を託していた世界。それは、ある意味では、セルト人とロムルス人の間に横たわっていた全てのしがらみが解消された世界だとも言えた。言うまでも無く、両民族の対立は根深く、深刻だった。だから、一度世界が終わりでもしなければ、そんな事は出来なかっただ
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