ゆり
三本目
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そこにゆりのアパートがある。
時刻はもう日も落ちきった夜八時。ゆりは駅から自分の家を目指して歩いていた。
そして、ふと気づく。
(…嘘)
ドク、と心臓が音を立てた。
(え、嘘。嘘嘘嘘…だって、おばあさんは除霊したって…)
後ろから、視線を感じる・・・。
浮かれていた頭に、一気に冷や水をかけられた気分だった。鞄をぎゅうと握る手の平が汗ばむのがわかる。ゆりを追うようについてくる足音もする、気がする。
街灯もまばらな薄暗い住宅街の道。人通りはほぼ無いに等しい。ゆりは、自分がたった独りで夜の中にいることを酷く意識した。
ゆりは少しだけ歩くスピードを速くする。ついてくる足音らしきものも、それにあわせてはやくなる。それに気づいた時、ゆりは恥も外聞もかなぐり捨てて駆けだした。
(ねぇ、待って。なんで、なんで、なんで…!)
家まではまだ結構な距離があった。どうしよう。コンビニでもどこでも良い、もう、どこでもいいから人がいる明るいところにいきたい!ゆりの目には涙が浮かぶ。
今や足音ははっきり大きく耳を打ち、こんなにゆりががむしゃらに走っているのに、その距離を一足飛びに縮めてくる。もう、だめ、追いつかれる…殺される!そう、ゆりが覚悟したその時だった。
「待って、日紅!」
「でやあぁ!」
「ぐえっ!」
立て続けに人の声がして、背後でずしゃりとなにかが転ぶ音がした。それでも止まるのが怖くて、ゆりは暫く走り続けてから、先ほどの声の中に聞き慣れたものがあった気がして、ゆっくり足を止める。
「こっのー!変態!なにゆりちゃんのあとつけてんのよ!バカ!バカ!変態!」
「変わるよ。どいて、日紅。今から警察が来ます。自分がしたこと、わかってますね?」
恐る恐る振り返ればよくわからない光景が繰り広げられていた。
アスファルトに頬をつける小太りの男。その背に馬乗りになる山下。その山下と交代し、流れるような無駄のない動きで男を押さえつける青山。大学で別れたはずの二人が、そこにいた。
「…つまり、どういうことなの?」
駆けつけてきた警察が男を連行する間、ゆりはただぽかんと立っているだけだった。一人だけ、状況について行けていない。隣の青山に尋ねると、青山は首を少し傾けて言った。
「つまり、女性の夜の一人歩きは危ないからやめましょう、ってことかな」
「つまり、本当に怖いのは死んでいる人間よりも生きている人間ってことだよ、ゆりちゃん!」
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