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東京百物語
ゆり
三本目
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みかしこみまもをす」



 そうして言葉を切ると、蝋燭の火を老婆はふっと一息に消した。



「…終わったよ」



 そう言われて、ゆりはゆっくりと目を開ける。



「もう大丈夫だ。肩が軽くなったはずだ」



 そう老婆の声がする。言われてみると、ゆりの気分は、肩の荷を全て下ろせたようにすっきりしているのに気づく。



「おばあさん、祓えたんですか?もう、私、霊に苦しまなくて良いの?」



「そうだよ。今までよく頑張ったね」



 ゆりは自然に涙が溢れてくるのを止められなかった。滂沱と涙を流しながら、両手で顔を覆う。良かった。本当に、良かった…。



「お金は…」



「いらんよ。友達に感謝するんだね。そのかわりサッサとどっかにいっとくれ。この歳になるとその若さと素直さは毒なのさ。あーヤダヤダ、まさかこのアタシがタダ働きする日が来るなんて・・・歳はとるもんじゃないね」



「ありがとうございます!」



 ゆりは心から頭を下げた。怪しい老婆だなんて思って申し訳なかった。無償で除霊してくれるこんなにいい人なのに。



 老婆はさっさといけとでも言うようにしっしと手を扇いだ。



「本当に、ありがとうございます!」



 怪しい店から出て、ゆりはうーんと伸びをした。世界が変わって見える。もう、苦しまなくて良い。そのことは、ゆりの心を明るく前向きにさせる。



「ね、どっかでご飯食べていかない?…山下?」



 ゆりはくるりと振り返り、山下がしきりに左手を気にしているのを目に留める。



「手、どうかしたの?」



「えっ!?あ、ううん、別に!?」



 山下は大袈裟なほど違うと手を振る。見たところ、山下の左手にこれと言った異常は無いようだが…。ゆりは首を傾げたが、すぐに気にならなくなった。浮かれていることを自覚しながら、ゆりはそんな自分を許した。今日ぐらいは、はめを外しても誰に怒られることもないだろう。



「お礼に私におごらせてよ」



「いいよいいよ!ゆりちゃんが元気になっただけで」



「いいからいいから」



 ゆりは山下の腕をぐいと自分の腕に絡めると、青山の背を叩いて二人を新宿の街に促した。



 結局、その後しっかり大学の授業も受け、ゆりはスキップをしそうな勢いで山下や青山と別れた。急に元気になったゆりに、友人達は皆、驚きからかいながらも一様に安心しているのが見て取れた。ゆりの世界は今や薔薇色だった。



 大学からゆりの家は少し距離がある。電車を乗り継いで一時間、最寄りの駅から更に徒歩で二十分。
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