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スミレの花が咲いて
スミレの花が咲いて
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 若者はそれを聞いて暫しの間沈黙した。流石にそう言われては返答に窮することになった。彼は考え込んでしまった。
「どうじゃ?それでもよいのか」
「構いません」
 若者は意を決した顔でそう答えた。
「あの娘と一緒になれるのなら」
「そうか」
 長老はその顔を見て頷いた。彼も意を決したのである。
「それならばよい。御前がそこまで言うのならばな」
「はい」
「では言おう。その方法じゃが」
 長老は彼に対してそれを言った。若者はそれを聞き終えると大きく頷いた。
「わかりました。ではそれで」
「よいのだな、本当に」
「はい、もう全ては決めましたから」
「よし」
 こうして二人は決意した。翌日若者は朝早く村を出た。別れは誰にも告げなかった。一人長老だけはそれを見守っていた。
「さらばじゃ」
 彼は遠くへ去って行く若者を見送ってそう呟いた。この時彼には全ての結果がわかっていたのであろうか。

 若者は娘のいる集落へ向かった。長老に言われたままそこへ向かった。そして側にある森の中へ潜んだのである。
「ここなら」
 そこから集落を覗き込んだ。見れば娘は集落の中にいた。彼はその姿を見ただけで胸が張り裂けそうになった。もう我慢できなかった。だが彼はここで踏み止まった。
「待て」
 そしてあらためて村の中を覗き込んだ。見れば娘は何も気付かず一人川のほとりで洗濯をしていた。若者はそれを見て今は好機ではないと思った。そして森の中に潜み続けた。
 若者は森の中で娘を窺っていた。食べ物は森の中にいる動物達であった。どんな素早い動物も獰猛な動物も彼の敵ではなかった。だが彼にとってそんな動物を仕留めることよりも遥かに重要なのが今集落にいる娘であった。
 彼は待った。何日も待った。そして遂に機会が訪れたのである。娘が森の側にまでやって来たのである。
「よし!」
 彼はそれを見て動いた。そして娘を捕らえた。彼はそのまま何処かへと向かった。それは彼の村ではなかった。遠く離れた山の方であった。
 娘がいなくなったことはその集落ではすぐにわかった。すぐに何処に行ったのか調べられ集落の一人が娘が若者に森の側でさらわれ山の方に向かったと言った。集落の男達はそれを受けてすぐに総出で山の方に向かった。そして二人を追ったのだ。
 一週間程経ったであろうか。彼等は山のふもとに二つの影を見つけた。見れば人間の影であった。彼等はそれを見て確信した。それが誰なのかを。彼等はそこへ急行した。そして遂に二人を取り囲んだのだ。
「遂に見つけたぞ」
 集落のリーダーでもある壮年の男が二人に対して言った。彼等は皆手に槍や弓を持っていた。それに対して若者は素手である。彼は速く走る為に斧も弓も持って来ていなかったので
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