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スミレの花が咲いて
スミレの花が咲いて
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それは知ってますけど」
「まあ聞け」
 長老はそう彼を諭して言葉を続けた。
「それで相手は誰じゃ。この村の者か」
「いえ」
 だが彼は首を横に振った。
「では隣の村の者か」
「いえ」
 また首を横に振った。長老はそれを見て考え込んだ。
「では誰なのじゃ」
「それが」
 しかし若者は口ごもった。敵の部族や魔物を相手にする勇敢さはその時は何処にもなかった。
「それでは何処の誰なのじゃ」
 長老はそれでも問うた。何としても聞きださないわけにはいかなかったからだ。それも彼のことを思えばのことであった。
「言えぬのか?」
「はあ」
 彼は俯いてそう答えた。
「申し訳ないですが」
「それではこうしようぞ」
 長老はそれを受けて言った。
「これはわしと御前だけの秘密にしておく。それでよいか」
「秘密にですか」
「うむ。わしと御前の仲じゃ。それも当然じゃ」
「わかりました」
 彼はそれを受けて頷いた。
「それではお話させて頂きます」
「うむ、言ってみよ」
 そして彼に話させた。それを受けて若者は話はじめた。
「向こうの部族の娘です」
 彼はあの部族の集落があった方を指差してそう言った。
「何っ」
 長老はそれを聞いて思わず眉を顰めさせた。
「今何と言うた」
「ですから」
 彼は話を続ける。
「敵の部族の娘なのです」
「本当なのじゃな」
「はい」
 若者は頷いた。
「それで困っているのです。どうしましょうか」
「そうじゃな」
 長老はそれを聞いてあらためて考え込んだ。
「困ったことじゃな」
「はあ」
 若者は長老に力なくそう答えた。
「ですから困っているのです。どうしましょうか」
「ううむ」
「何かよい知恵はありますか」
「知恵と言われてものう」
 何しろ敵の娘である。とても若者に意に沿うことはできそうにもない。だからこそ彼は困り果てているのであった。
「さて、どうするか」
「宜しければ何か教えて下さい」
「何か、か」
「はい」
 若者は強い声で言った。
「何かあるのですか」
「ないことはない」
 長老は憮然とした顔でそう答えた。
「本当ですか!?」
 若者はそれを聞いて晴れやかな顔になった。だが長老の顔はやはり晴れてはいなかった。
「じゃが多少強引じゃぞ。しかも」
「しかも?」
「それをしたならば御前は暫くの間、いや下手をすると永遠にこの村から離れなくてはならなくなる。それでもよいか」
「村からですか」
「そうじゃ」
 長老は言った。
「それでもよいか。村から離れることになっても」
「・・・・・・・・・」

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